第63話 制圧、交渉
それでも彼らは、複雑に入り組んで積まれたレンガを、ついに一つ分だけど壁を貫通させることができた。
レンガを外した穴を覗き込んで、その向こうを埋める土を見て、絶望の表情になって膝から崩れ落ちる。
なんか、ごめんよって気になるよね。
瑠奈が僕に目配せをする。
ああ、そうだね。
今がチャンスだね。
全員がくたびれ切って、絶望の海を漂っている今の状況なら簡単だ。
全部の武器を取り上げるのに10秒と掛からないし、気付かれもしないだろうよ。
縛り上げることだって可能だけど、さすがに可哀想。それに、僕たちが目を逸らしたら、口を使ってでも解き合っちゃうだろうし。
さくさくと終わらせて、お姉さまの合流を待つ。
武器って、本当に重いよね。よくもこんなモン持って戦うって気になるもんだよ。
そしてもう一つ、考えなきゃいけないことが僕たちには残っている。
ここまでお姉さまのツテで運転手をしたり、いろいろな手続をしてくれた人と最初に捕まえた殺し屋さん、それから敵のうちの1人が、海沿いの洞窟に隠れている。
昼間は、観光客と一緒にうろうろしていたみたいだけど、夜になる前に隠れたんだよね。
雉島連絡船は、行った数と帰った数が一致すれば、深追いはしないって読みで、自由にしていたんだ。
ここでぐったりしちゃった人たちの身の振り方は、その運転手さんに頼めば自動的に片が付きそうな気がするけれど、殺し屋さんたちはどうしたもんかなって思うんだ。
他の人たちは、幻覚を見た程度だけど、殺し屋さんとそれから敵のうちの1人は僕がより深く洗脳しちゃったからね。赤い目でつらつらと眺めちゃったから、深層心理まで不可逆的に僕の影響が及んでいる。
幻覚を見せるレベルじゃなく、行動を制御するほど深い位置にタッチしちゃったんだよ。
で、逮捕されて裁判に掛けられるのが、正しい姿だとは思うけど……。
彼らはもう、本当の意味で反省も罪を償うこともできないかもしれない。夢の中で犯した犯罪を現実で裁かれる、そんな気になるだろうね。僕が赤い目を使う前だったら、自分のやった犯罪を実感を持って反省できたんだろうけど。
どうしていいのか、わからないよ。
でも、まずは勝った。
僕たちはいい仕事をした。実体を知られていない秘密結社としては、本当にいい仕事をした。
でも、この勝利をどうやったら、先々までの安全に繋げられるのか、それはまったくわからない。どことどのように交渉したらいいかさえも終わらないんだ。
やっぱり僕、経験値が高校生に過ぎないんだと思うよ。
殺し屋さんも、捕虜たちの後始末もお姉さまに一任だけど、どうせこの決定には僕たち、役に立たない。
話だけは後で聞かせてもらわないとだけどね。
きっと、むちゃくちゃどろどろした話が聞けるだろうなぁ。
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