第12話 父さん、どこ行ったんだ


「ヨシフミっ!

 あのね、そもそも私はなにしに行くのよ、アンタの両親のところにっ!?」

 そんなに詰問しなくってもいいじゃないか。わかっているってば。


「……僕の両親ののろけ話を聞きに」

「わかってんじゃないの。

 で、初対面の得体のしれない女にそんな話をすると思う?」

 そこまで言われて、ようやく僕、瑠奈の言いたいことがわかってきた。


「……普通しないよね」

「だから、きちんとあいさつして、警戒心を解く必要があるのっ。

 わかんないかなー、このアン コンは……」

 アン コン※って、どういう意味なんだろう……。

 どーせ、悪口だ。それも、フランス語の。

 どーせどーせ、僕にわからないからって、酷いこと言っているに違いない。

 どーせどーせどーせ、結局は僕が悪いって、最後はやり込められるんだ。


「わかったよ。

 じゃ、ちゃんとあいさつするとして、どう紹介されたいの?」

「どう、って……。

 中学の時の同級生……」

「には、僕の両親、のろけ話しないと思う」

「……」

 あーあ、瑠奈、黙り込んじゃったよ。


「じゃ、正体はジェヴォーダンの獣だって話しちゃおうか?

 きっと、父さんなら驚かない。

 母さんはどん引きだろうけど」

「それはイヤ!

 ってか、そもそものろけ話は絶対に聞けないと思う」

「じゃあやっぱり、彼女ができたって紹介する方がまだよくない?」

「くっ。

 やっぱり、お祖母ちゃんに来てもらおうか……」

「ええっ、彼女って紹介されるの、そんなに嫌なの!?」

「……だって、恥ずかしいじゃん」


 ちぇっ。

 なんだ、その弱気。

 じゃあ、その弱気に便乗してイジメてやるー。

「わかった。

 じゃあ、お姉さまにお願いしよう。

 で、『だれだ?』って父さんに聞かれたら、お姉さまを彼女だって紹介する。

 父さん、びっくりして声もあげられなくなるだろうなー」


 ぱく。

 僕の視界は真っ暗。

 そして、ぶんぶんと振り回される。

 ったく、また僕を咥えて振り回しているなっ。

 怒るより先に、うだうだして結論を出せない自分の態度も反省しろー。


 結局20分後、瑠奈は彼女だと紹介されることに同意してくれた。

 散々僕を振り回して、ストレスが解消できたんだろうね。

 でもね、こんなの普通の人間に対してやったら、絶対死ぬから。僕だから耐えられるんだかんな。だから、その当たり散らし方は止めて欲しいぞ。


 そしてそのあと、僕と瑠奈は病院に向かって自転車で走りだしていた。善は急げ、だからね。

 外はもう暗くなっちゃったけど仕方ない。

 ま、僕も瑠奈も暗闇の中での方が強いから、変なヤツに絡まれたりしても暗いこと自体は問題ない。だけど、補導でもされたらそっちの方がよほど困るな。



 病院に着いたけど、面会時間があと40分くらいしかない。

 でも、まずは顔合わせから始めなきゃだから、父さんに会って話すということに変更はない。

 だから、瑠奈とずんずん歩いて病室に入って……。

 あれっ、いないじゃん。

 ベッドは空だった。



※アン コン ・・・ バカ男


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