第11話 咥えられたヴァンパイア

 

「『そういうことにしてあげる』って言われたから、僕、もう、瑠奈るいなさんを彼女だと思っているもん」

 そう言ってから、僕、瑠奈を抱きしめる力を緩めた。


「気の利いたこと言ったつもりでも、ダメだよ。

 マジになると、女を落としまくれるヴァンパイアの特性でもさぁ、赤くなって言ってたら台無し」

 反撃が来た。

 瑠奈だってさ、こういうとき、もう少し言いようがあると思うよ。


 それにさ、僕だって初めてのことだし、激しくどきどきだってしてるんだよっ。悪かったなっ。

 そんなこと言ってる瑠奈だって、真っ赤じゃん。260年も生きてたくせに。


 瑠奈、パニクりながらも僕の顔見て、考えていることを察したみたい。僕と同じで、真っ暗でも目が見える存在だからね。

 すぅって、姿をジェヴォーダンの獣に変えた。

 もふもふだけど、強くてしなやか。


 僕、瑠奈の考えていることがわかったら、そのままツッコんだ。

「あのさ、毛むくじゃらの顔になれば、赤くなっているのがバレないと思ってる?

 僕の目には、見えてるんだけど」

「ヨシフミ、アンタやっぱり優しくないっ!」

 んがぱく。


 なにも見えない。

 僕の頭を、まるまる咥えるんじゃないっ。

 そんなテレ隠しってあるかっ。

 僕の首の周りには、4本の白銀の牙。それが僕に刺さることはない。

 でもっ!

 ぶんぶん首振って、そのまま僕を振り回すなっ!



「ひぎゃあっ!!」

 凄まじい悲鳴が轟いた。

 ぱかんって開いた瑠奈の口からこぼれ落ちた僕は、1年生の女子3人が恐怖のあまり泣き叫んでいるのを発見していた。


 まぁ、地獄絵図だったよね。

 でもって、お化け屋敷という場でなかったら、警察とか、猟友会とか出動しちゃうところだったかも。

 もー、ほんと、シャレにならないよっ。



 − − − − − − − −


 で、それから割りとすぐに、展示の時間は終わって。

 あれほど準備に時間かかった展示は、たったの40分で撤去されて元の教室に戻った。

 展示を見た人からのアンケートをまとめる仕事が残っているけど、それはまだ先でいい。締切は一週間後だからね。

 大会が近いという部活以外は休みだし、担任からの点呼が終わったら、すぐに帰るってことになった。


 で、笙香しょうかも加わって、3人での帰り道。

「今日は、ずっと2人きりで話していたじゃん。

 ちょっとは進展した?

 ひょっとして、暗い中、キスくらいはした?」

 笙香が、屈託なくよく動く口で聞いてきた。


「そんな暇なんかない。

 次から次にお客さん入ってくるし、僅かな間に打ち合わせしなきゃだし、本当に忙しかった」

 僕、そう答える。

 笙香が、聞いてこないことなんてありえないから、頭の中で答えを準備しておいたんだ。


「そっか。

 それは残念ー。

 瑠奈、少しはヨシフミに優しくしてあげた?」

「私の方が、優しくして欲しいわっ」

「あのね、瑠奈、多すぎる『つん』と微量すぎる『でれ』じゃだめよ。

 ヨシフミも、いつまでも辛抱強くはいられないかもよ」

「そーだ、そーだ」

 思わず、僕、同意してしまう。

 

「ヨシフミ、アンタはアンタで優しくないのよ。

 何でもかんでもツッコまないで、少しは優しくできないの?」

 ……今度はこっちが矛先かいっ。

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