第4話 回収、合流


「どうする、コレ?」

 フランス人少女の姿の瑠奈るいなが、長いナイフを差し出す。

「どうする、コレ?」

 僕も、オウム返しに同じ言葉を繰り返しながら、拳銃を差し出す。

「なんかさ、妙に高そうじゃない?」

「うん」

 瑠奈の問いに同意する僕。


 なんか、どっちの武器も精密感溢れる感じで、ものすごくお高そうだ。

 僕たちへの対応も、凄く頑張っていた。まさか利き腕でない手で拳銃を撃とうとするとは思わなかったし、僕の赤い目による洗脳も一瞬では効かなかった。

 きっと、一流のプロってヤツなのだろう。

「誰かが拾って悪さしても困るから、一応回収しておこうよ」

「うん」

 今度は、僕の提案に瑠奈が頷く。


 ま、モノとして魅力的ではあるけど、僕たちにはあまり意味がない。

 僕に拳銃の弾は当たらないし、瑠奈の牙はこの長いナイフより鋭い。ということは、僕がナイフを、瑠奈が拳銃を貰っちゃえば、少しは役に立つかもしれないけどね。

 もっとも、瑠奈は思いの外潔癖症で、あまり噛み付くってことをしない。

 今回だって、汗臭いおじさんを口の中に入れたくないって気持ちの方が強かったはずだよ。自転車のタイヤの方が、まだましだったはずだ。


「お祖母ちゃんに連絡は?」

「瑠奈がアレを抑えつけたときに、お姉さまに電話したよ。

 すぐに迎えの車が来るって。5分とは掛からないってさ」

「じゃ、もう来るね。

 お祖母ちゃん、どこにいたのかな」

「……さあねぇ」


 瑠奈が「お祖母ちゃん」と連呼するのは理由がある。

 瑠奈の祖母は、「お祖母ちゃん」ではあっても、けっして「お婆ちゃん」ではない。

 見た目はアラサーのペネ□ペ・クルスで、見惚れてしまうほどゴージャスにきれいな人なのだ。

 だから、当然、僕も見惚れる。

 そして、そんな僕を瑠奈は許せないみたい。

 だから、瑠奈は必要以上に、「お祖母ちゃん」呼ばわりするのだ。


 僕は、その「お祖母ちゃん」を「お婆ちゃん」呼ばわりした結果、物理的に吊るし上げられた。それ以後僕は、「お姉さま」と呼ばせてもらうことにしたのだ。

 だから、今さらまた「お婆ちゃん」なんて呼んだら、確実に殺されるからね。僕だって必死の「お姉さま」呼びなんだよ。


 あとさ、一応念の為に言っとくけど、瑠奈だってきれいだよ。

 でも、きれいの種類が違う。

 日本人の姿でも、フランス人の姿でも、瑠奈は少女の綺麗さと可愛さなんだ。



 ともかく、タイヤの音を軋ませながら、没個性的なライトバンが目の前に停まった。

 この地点は、街中にあるカメラの死角の1つだからね。

 急げば、この車が一時的でも停まったことがバレなくて済む。


 瑠奈が車のバックドアを開ける。

 僕は、気絶した男を荷台に放り込む。

 ヴァンパイアの力は強大だ。100kgくらいのものなら、指先1つでお手玉ができるよ。

 それを追いかけた瑠奈と僕が、バックドアを内側から閉め、閉める音がするより先に車は走り出している。

 掛かった時間、ものの2秒くらいかな。

 

 車に放り込まれた衝撃で我に返った男を、僕は赤いヴァンパイアの目でじっくりと見てあげた。

 すぅーって、男の目から意思が失われる。

 あとは、お姉さまに任せればいい。

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