第4話 ヴァンパイアの作る恐怖の実験場


 一時間目は数学だ。

 数学の先生が来るまでの間、僕はクラスのみんなに囲まれた。

「やるなあ、ヨシフミ。

 お化け、幽霊の『具体的に展示』をするんだな」

「うん、恐怖の本質についても、実験しないと理解できないだろ?

 その実験の場として、当日の教室を使えるよね」

「つまり、お化け屋敷が必然なんだな」

「うん」

 そんなふうに答えながら、僕の心のなかで、悪いモノが目を覚ます。


 そう、本気になれば、僕、みんなに恐怖ってのを教えてやれるんだぜ。

 お化け屋敷の中の展示の1つとして、本当に怖いものを紛れ込ましてやろうかな。阿鼻叫喚の地獄が出現するかもしれないけど。


「なるほど」

「ヨシフミ、頭いいっ」

「俺たち全員のやっていることを、一人の先生が全部見張るのは無理だしな」

「そうだな、文化祭の場だけで、そういった事象への追求は終わらないもんな。祭りの場を実験に使うって凄い良いアイデアだな」

「山本、無理して難しい言い方しなくていいから。

 お前、わかってないだろ?」

 わいわいと、自動的に話は盛り上がっていく。

 あとは頑張ってくれ、みんな。


「ヨシフミ、今までの準備が無駄にならなくて済むかもしれない。

 ありがとう」

 本郷が言う。


「時々マヌケだけど、トータルで見たら賢くなった。

 うん、褒めてやろう」

 これは、笙香しょうかの言い草。

 あいかわらず、なんて偉そうなんだ。瑠奈るいなと揃うと、無敵のツイン女王様だ。

 でも、こういう奴の方が、なんかあった時にぽっきり心が折れたりしちゃうのかもしれない。昨夜、瑠奈からの話を聞いてから、そんなことも思うよ、僕。


「大元は僕の考えじゃないよ。

 最初のきっかけは、内川さんだよ。

 文化祭だから、お化けも文化にしちゃえばいいって、凄いいい考えだよね。僕は、その考えに先生を巻き込んで、逃げられないようにしただけだよ」

 そう言いながら、僕の目は、瑠奈を探す。 


 いた。

 自分の席に座っている。

 瑠奈、教科書なんか広げて、予習とかしているみたい。

 めずらしいね、そんなの。

 いつもは余裕くれてるのに、勉強している姿を見せるだなんてね。


「内川さん!

 さっきは……」

 声を掛けてみる。

「うっさいっ!」

「えっ、……なんで?」

「確認しておきたいことがあるのよっ!」

「……ごめん」


 一体全体、なんなんだろうね。

 やっぱ、笙香よりよっぽど横暴な女王様だよ。

 そこで、数学の先生がやってきて、話は終わりになった。


 昼休みも、瑠奈はしゃかりきに勉強していて、どういうことなんだろうって思ったよ。



 6時間目は、担任の教科で社会。

 でもって、思わぬところで、先生の本音が聞けた。

「文化祭の展示の件だけど、教頭先生から了解を取り付けた。

 俺と一緒に展示を作る前提で、だ。

 ただな、いいか、おまえら、学年主任の先生の前ではおとなしくしてろよ。頼むから、なんもないところにわざわざ波風立てないでくれ。

 いいな?」

「はいっ!」


 かつて、これほどクラス全員の返事が揃ったことがあったかな!?

 そか、朝のホームルームで担任の先生が挙動不審になってたのは、学年主任の先生は丸め込むのは難しいってことで、脳内会議を開いていたからなんだな。

 で、直接、教頭先生から了承を得た。

 これがどういうことか、中学生の僕たちだってわかる。

 それに、先生が他の先生のことを言うことなんてこと、それこそ滅多にないことだ。

 担任、戦ってくれたんだなー。誤解していて、ごめんなさいだよ。


「ついでに言うぞ。

 中間の平均点、一組を追い抜け。

 そしたら、職員室でオレの立場が強くなる。

 やっぱりな、先生ってのは、生徒次第なんだよ」

 クラス中が笑い声に包まれた。


 もう全員の考えがわかるよ。

 しょうがない、そのけしかけるのに乗ってやろうっていうことだ。

 そうすれば、文化祭、胸を張ってお化け屋敷、もとい、恐怖の実験場ができるからね。

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