第34話
うさぎの店員は人懐っこい笑みを浮かべながらも、てきぱきと動き、三人の前にお手拭きを並べた。
カウンターの奥では人間の女性が手早く魚を焼いている。頭にはタオルを巻き、こんがりと日焼けした顔はつやつやしていた。うさぎの店員が店長と呼びかけていた。
「お昼は一品だけなんだ。だけど、間違いなく美味しいから! はいどうぞ!」
店長は三人の前に焼けた魚とライス、あと茶色のスープを変わった形の器に入れて並べた。スープ皿よりも深いけれど、両手で包めてしまうほど小さい、木製の器だった。
ナノはおそるおそるそのスープを口にする。今までに食べたことがない味だった。甘さと塩辛さが絶妙に口の中で混ざり合い、優しい味がする。
「うまい! これはいったい……!」
目を輝かせるナノを見て、店長は真っ白な歯を見せて笑う。
「うちの故郷でよく飲まれてるスープだよ。具は豚肉と野菜がたっぷり。そんなに美味しいって言われると嬉しいな。お嬢ちゃん辛いものは好き?」
「大好きです!」
じゃあ、と言いながら店長はぱらぱらと赤い粉をスープに散らした。どうぞと言われて、ナノはゆっくりとすする。
粉を散らしただけなのに、舌の上をなにかが小さく踊るような感覚が走り、次第に熱を持った痺れがやってくる。このスープのために作られたような香辛料だった。しちみ、という名前だと教えてもらった。
「お客さんたち、旅人でしょ。どこから来たの」
「ヴェルデ村、という田舎です。ステラは……」
「獣人地区の南のほう」
ステラが吐き捨てると、うさぎの獣人は紙を丸めるかのように顔を歪めた。そいつはやべえ、とステラのグラスに水を注ぎながらつぶやく。店長がこら、と小さく叱った。
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