第70話

「はあ、イーズちゃん会いたかったのよ! きみに彫ったケルベロスがどうなったか、ずーっと気になってたの!」

「ケルベロス?」


 ナノとステラがぽかんとする。イーズだけがわずかに頬を赤らめ、ふたりから視線を逸らす。その横でレオは自分の失言に気づいて顔を両手で覆っていた。


 ひとまずお茶でも、とレオが誤魔化しながらロッジハウスの中に三人を案内する。


 なにごともなかったかのようにレオはお茶の支度をして、手作りのオレンジケーキを切り分けて皿に盛りつける。イーズがおいしそうだなあ、と大げさに言いながらそれを口に運ぶ。


「イーズ、おまえタトゥーあんのか」


 ケーキを食べながらも、ステラが空気を裂くような口調で問うた。ナノもそれに乗っかるようにして、イーズの顔をじっと見つめる。

 イーズは一瞬視線を泳がせたのち、完璧な微笑みで「あるよ」とさらっと返す。その後はなにも触れず、ケーキを食べていた。


「イーズのタトゥーも……ユーリが描いたものなのか?」

「そうだね」

「……見せてほしい」


 イーズはなにかを言おうとしたけれども、唇を軽く噛んで飲み込んだ。


「……ナノはほんとにユーリが大好きなんだね。これ食べてからでいい?」


 イーズの皿には半分ほど、ナノの皿には三分の二くらいのケーキが残っていた。ナノは食べるペースを早めて、お茶でケーキを流し込む。その様子をイーズはぼんやりと眺め、また食べるのを再開する。


 最後にレオがヴェルデ村に来たのは、三年ほど前のことだ。そのときにナノも左腕にマーメイドを彫ってもらった。ユーリがデザインをして、レオが彫った。おそらくそのタイミングでイーズもタトゥーを入れたのだろうと察する。

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