第71話

 だけどユーリもレオも、イーズもナノに教えてはくれなかった。ささいなことだけれど、長いあいだ隠しごとをされたような気分だった。もちろん、三人に悪意などかけらもないことは十二分にわかっていたが。


 ケーキを食べ終わって、ひと息ついてからイーズはシャツのボタンをはずした。ナノとステラに背を向けたまま、上半身だけ脱衣する。


 背中の右上に三つの頭を持つケルベロスが彫られていた。赤みがかった黒い身体に、燃えるようなルビー色の瞳。三匹とも牙をちらつかせ、威嚇するようにこちらを見ていた。

 いつものイーズには似つかわしくない背中に、ナノは息を呑む。


「身体が大きくなってるからか、絵柄がちょっと広がっちゃってるわね。優しい顔つきになっちゃってる」

「ああ……やっぱり。三年間で身長も伸びたし、体重も増えましたから」

「まあ、それを見越して彫ってるからね。ああ〜それにしてもほんといい仕上がりねっ! さすがアタシ」


 レオはうっとりしながらイーズの背中を撫でた。イーズは、ひゃっと声をあげてわずかに背中を反ると、困り顔で振り返る。振り返った上半身にはいくつかの切り傷や薄いあざが残っていた。


「イーズ……その傷は……」

「これは訓練でついたやつで……痛々しいよね、ごめん」


 首から上はナノが知っているイーズでしかないのに、その下はまるで別人のようだった。

 戸惑いを隠せず、ナノは目を伏せる。そんなナノに対し、イーズもなにも言えないようだった。


「つーかなんでこんなおっかねえ絵柄にしたの? おまえならもっとこう……かわいい花とか彫りそうなのに」


 重い空気の中、ステラがイーズの背後に回り、ケルベロスをまじまじと見る。


「かわいい花って……どういう意味だよ。それより、もう服を着てもいい?」

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