第72話

 イーズの服はステラが預かっていた。ちょうだい、と手を伸ばすもステラは渡そうとしない。イーズの身体をじろじろと見て、ほお、と感心しているばかりだ。服を取り返そうとしても、軽々と避けられてしまう。


「ステラ? ねえ、服を返して」

「いやあ……すげえ身体だなと思って。バッキバキじゃん。ほお、お見事お見事」


 ステラのからかうような口調にイーズは顔を赤らめる。赤くなってやんの、と言われるとさらにむきになって服を取り返そうとする。その場で軽く追いかけっこが始まった。


 室内にも関わらず、ぎゃははと子どものような笑い声をあげ、ステラはひょいひょいとイーズを避ける。

 大の男が追いかけっこをしている光景は滑稽だった。レオが先に笑いだし、つられてナノも笑った。


「ステラちゃん、からかうのはそこまでよ。お腹が冷えちゃうから服を返してあげて」

「はあい。ぷぷー、イーズくんってばムキになっちゃって。おもしろいもん見れたわ」


 イーズはステラから乱暴に服を受け取る。悪態をつきながら服を着ると、ステラの肩を軽く押した。

 大きな子どもね、とレオが苦笑した。そして、「彼、ちょっとユーリに似てるわね」とナノに耳打ちした。



 夕飯には朝獲れの魚介類をたっぷり使ったトマトソースパスタをレオが用意してくれた。


 辛いものが好きなナノのために、ナノのパスタには唐辛子をたっぷりと乗せ、タバスコをたっぷりとかけた。これに以前旅の途中でもらった秘伝スパイスをちょい足しする。イーズとステラは信じられないものを見るような目でそのパスタを眺めていた。


「それにしてもふたりに会えて嬉しいわあ。ユーリのことは本当に……大変だったわね。ユーリが亡くなったときも手紙をくれてありがとう。お墓参りにも行けてなくて、ごめんなさいね。あいつも死ぬんだなって驚いたものだわ」


 レオは静かに笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る