第140話

 ステラは腰に手を当てて、笑うでもなく怒るでもなく、かといってばかにするわけでもない、小さな笑みを浮かべた。よく見なければ笑みとわからないほどの笑みだった。


「あ、そう。ちなみに今は違う夢があるんだぜ。イーズには話してなかった気がする」

「夢?」

「故郷に学校を作る。どうよ」

「素敵な夢。どんな学校にするの?」


 イーズの問いにステラは困った顔をした。まだ未定らしかった。未定と言い放ってから、ステラは首を横に振る。


「それ以上考えなかった、ってのが正しい。夢膨らませたって無駄だと思ってたから。けど、かっこつけてえもん、好きな子の前では。だから、ちゃんと夢と向き合うことにした」

「……ナノがステラを変えたの?」

「まあそんなとこ。ばかみたいだろ」

「ばかじゃないよ。わかるよ。かっこつけたいのは……たぶん僕も同じ」


 イーズの答えにステラはいしし、と笑った。

 今の自分はとてつもなくかっこ悪い。あの物置に隠れて、膝を抱えてしまいたいくらいだ。


 だけも本当はどこかで受け入れてあげるべきだったのかもしれない。それに気づいた今はとても清々しかった。


「……お、雨止んでんぜ」

「ほんとだ。通り雨だったのかな」

「でもまたむこうに黒い雲あるし、早く戻ろうぜ」

「そうだね。ありがとう、ステラ」


 イーズはステラに手を差し出す。わずかに驚きながらも、ステラはイーズの手を握り返した。

 洞窟を出て山を降りる。ぬかるんだ泥は滑りやすくなっていて、木や岩に手をつきながらふたりはゆっくりと進んだ。


 ようやく足元が安定する道に出た。イーズはポケットに手を突っ込み、ステラから預かっていたナイフを取り出した。


「返す、これ。僕にはもう必要ないし」

「ああ、忘れてたわ。もうおれを殺そうなんて思わない? ほんとにいいのか」

「うん。ステラは大切な友だちだから」


 ステラはうーんと数秒迷ってから微笑む。


「持ってて。つか、あげるそれ」

「え?」

「いらないなら捨てといて」

「……ううん、ありがと」

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