11 未完成の絵画
第125話
しばらく経ってイーズは無事に退院した。抜糸も終わり、問題なく動けはするものの、激しい運動はしないようにと医者からしつこく言われていた。
「イーズ、本当によかった……よかった……」
「うん。ナノも顔のけが、きれいに治ってよかった」
「……慌てて転んで擦りむいただけのけがを、そういうふうに言われると、なんとも言えない……」
ナノは後頭部をかきながらも、目の前にイーズがいてくれる喜びを噛みしめる。失いそうになって大切さを思い知るのは、とても都合のいい考え方だと思ったけれど、やっぱり感じずにはいられなかった。
イーズは強い。ナノの中でそれだけは昔から揺らがない。
だけど、そばにいてくれることが、当たり前ではない。
ナノは確かめるようにイーズの手を握った。指先からとくんとくんとわずかに感じられる温かい音を、ナノはじっくりと確かめる。
「ナノ?」
イーズは困った顔で手元を見る。それでも振りほどいたり、拒否をしたりせずじっとそのままでいた。
目の奥がつんと痛くなったけれど、大きく深呼吸をしてぐっと抑える。
「……よし、行こう!」
「う……うん。あ、ステラ、また船だけど大丈夫? お水と薬、ちゃんと飲んどくんだよ」
ステラはむっと口を尖らせる。
「イーズおまえさ……退院早々お母さんみたいなこと言うなよ……ちゃんと飲んだ!」
「はは。心配してるんだ、イーズは」
「わかってるけどお。でもまあ、ありがと。ごめんなイーズ」
ステラが礼を言うとしんと静まり返る。この空気にステラ自身が一番戸惑っていた。
「えらく素直じゃない。頭でも打った?」
「おれだって礼くらい言うわ!」
「はいはい。じゃあ行こうか」
ナノはふたりの手を握り、駆け出す。わっ、と慌てたようなイーズとステラの声すら愛おしかった。
三人は賑やかに港へ向かった。
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