第126話

 ネモが住む街に近づくにつれ、寒気が厳しくなる。ナノはコートを着て手袋をつけた。


 とはいえ、ヴェルデ村は山岳地だったので、ナノとイーズは寒さにはそれなりに耐性がある。村のことをぼんやり考えながら、ナノは懐かしさを覚えていた。


「うう……さみい……」


 ステラはありったけの服を着て、イーズにブランケットまで借りたというのにがちがちと震えている。船内のストーブの前から動かない。


「やっぱり猫だから寒いのだめなの?」

「にゃご……南に冬はねえから、寒いのだめなんだよ……」


 ステラは暖を求めてナノの太ももを枕にすると、あったかい、と目を細めた。

 こういうのを見ると、ステラは獣人なのだと思い出す。先日もナノの膝枕の上で喉を鳴らして、眠ってしまった。


 ナノとしても暖が取れるのはありがたいので、ステラの頭をゆっくりと撫でる。ごろごろと喉を鳴らした。


「……僕はちょっと風に当たってこようかな。ずっと船内だと息が詰まる」

「いってらっしゃい。ちゃんと戻ってきてくれよ」


 イーズは眉を下げたまま、目をぱちくりとする。わずかに頬を染め「大丈夫」と言い残して甲板に出た。

 ナノはブランケットをステラの肩にかけ直し、ふうと大きく息を吐いた。


「疲れたら言って。どけるから」

「ありがとう。わたしもステラから暖を取っているから、しばらくこのままでいい。船を降りたら、温かいココアでも飲もう。きっと気分も優れる」


 ステラは服の裾からちょこっと出たしっぽの先を揺らした。ちらりとナノの顔を見て、すぐに顔を逸らした。


 本物の猫みたいだ。こういう存在が近くにいると、心が安らぐ。幼いころ。村にいた頃は、農場でよく動物たちと遊んでいたことを思い出していた。

 身体がぽかぽかしてそのまま目を閉じる。


 ──ちょっとだけ……。


 だんだんと人の声が遠くなっていく。

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