第127話

「ナノ、ステラ。起きて。着いたよ」

「ほわー。もう着いたのかよー」

「……さっき寝たばかりなのに……」

「一時間くらいは寝てたよ。立てる?」


 立ち上がろうとしたけれど、足がしびれて力が入らない。生まれたての仔馬のようにその場で震えるだけだった。

 どんどん人が降りて、まわりはがらんとしていく。早く出なければ船員に迷惑をかけるのに、ナノは動けなかった。


「ナノ、ちょっとごめんね」


 イーズはナノを軽々と担ぎ、さっさと出口へ向かう。申し訳なさと恥ずかしさでナノはイーズの肩に顔を埋めた。

 首に腕を回すような姿勢で、木登りをする猿みたいにしがみついていた。


「子猿になった気分……でも、ステラを見下ろしているのはなんだか新鮮な光景だ。ふふん」

「ナノに見下ろされるの、複雑。でもおれのせいだもんな」

「……素直だな。やっぱり悪いものでも食べたのか、ステラ」


 ステラは船酔いがまだ抜けず、覇気のない顔でナノを見やる。ふん、と小さく溜息をつくだけだった。

 ナノは抱えられたまま鞄から地図を取り出し、イーズに渡した。


「ええと……こっちの道……ん?」


 向かいのベンチにひとりの女性が座っており、ナノたちのほうをちらちらと窺っていた。腕を組み、眉間に皺を寄せている。

 短く青みがかった銀髪に褐色肌。頭には銀色の尖った耳がぴょこんと生えている。猫の獣人だった。


「……あれ、ネモさんじゃない? レオさんに聞いた特徴と一致してる」

「すげえこっちにらんでるけど……」


 ナノはイーズの肩から下りて、ネモらしき人物のほうに目を向ける。ナノと目が合うなり、その獣人は松葉杖をつきながら三人のほうへ向かってきたので、ナノも戸惑いつつ彼女に近寄る。


「おまえがユーリの娘だな」

「は……はい。ナノ・ビオレタといいます。ネモさんですよね」

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