第64話

 ベルが煙草をくわえて火をつけようとするが、口元が緩み太ももの上に落ちた。おっとっと、と言いながら拾いあげてまたくわえようとするが、口元は震えたままだ。ジャンボが手で口を覆いながらにやにやしていた。


 ──普通はこうなんだよな……。


 これが正しい反応だ。ステラは水をひと口飲んで、気分を落ちつける。


「夢があるんすか、ステラさん」

「そう。こいつ……ふふ、あのクソみてえな街に、学校を作りてえんだとよ」

「そんなもの作ったとて、だれも来るまい。青空学校みたいになるのがオチさ」


 ベルとジャンボの言うとおりだ。こうやってかつての仲間たちは、ステラの夢を笑い話にする。その中に身を置くたびに言わなきゃよかったと後悔している。


「青空学校ってなんすか?」

「おまえ知らねえのか。まあ……おまえは南の出身じゃねえからな、無理はないか。あの街で教育を広めようってめでたいやつがいたんだ。だけど学校なんてねえから、外に椅子置いて、板に炭で文字書いて、学校ごっこをしてた。外、青空のもとでやる学校だから、青空学校ってな」


 そう言うなり、ゾロが二本目の煙草に火をつけ、ふーっと煙を吐く。煙を吸ってしまい、ステラは軽く咳き込んだ。


「ふーん。おもしろいんすか? それ」

「さあ、俺は行ったことなかったから知らね。ただ周りは冷ややかに見てたことは覚えてる。こんな街で教育なんてクソほど役に立たねえってな。通ってたのはステラとステラの妹くらいだったけどな」


 なんだか罪を咎められているような感覚に陥る。


 当時、青空学校で教師をやっていた獣人は外部からやってきて、教育を広めようとしていただけだ。だれかの生活を脅かしたわけでもない。それなのに悪人のような扱いを受けていたし、青空学校は度重なる妨害を受け、結局わずか一年でなくなった。

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