第63話

「……わざとらしくおれに激突してくるおまえよりはマシだけどな。ちょっとは落ちついて動けや」

「まあ、そう言ってやるな。勢いのよさはこいつのいいところだ。まっすぐなやつだろ。こういうやつがいざというとき、一番強い」


 ゾロの言葉にちびっこがにやにやする。素直というか純粋というか、それともばかなのか……こういうやつをそばに置いているなんて、ゾロらしくないと思った。もっと空気を読んでスムーズに動けるやつを置くものとばかり思っていたけれど、きっと放っておけないのだろう。


「この前、アヴァリーに怒られちゃったんすよ! 『俺はおまえのような単細胞が一番嫌いだ』なーんて。自分こそ、お金のことしか考えない単純野郎なのになあ」

「おれがアヴァリーでもたぶん怒ってるわ」

「ええっ! ステラさんひどいっすう。おれ、ちゃーんと役立ちますよ」


 ちびっこがステラの腕に頭をすりつける。ごろごろと喉を鳴らし、口元には笑みを浮かべていた。まだ若い猫だからか、ふわふわの毛並みだった。


「おい、仮にも雇い主なんだから、呼び捨てはやめてやれよ」


 ゾロが笑いながら言った。それにジャンボとベルが続いて笑い、ステラはひとまず愛想笑いを浮かべておく。うまく笑えているのかすらあやしい。古くなった機械をむりやり動かしたみたいに、顔からぎりぎりと音がしそうなほど口の端がひくついた。


「ステラならうまく動いてくれると思ってるぜ。ボスには俺からちゃんと言っとくからよ」

「あざす。しかし、青の絵画ってのは、どうしてこうも人間の心を弄ぶんだか。みーんな振り回されてる気がする」


 ──ナノも、イーズも、ユーリの弟も、アヴァリーも、こいつらも、みんな青の絵画に……。


「そりゃ、金になるからに決まってんだろ。この仕事が成功すりゃ報酬も弾むらしいし、おまえの夢も叶うんじゃないか?」

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