第142話

 ステラは一度だけこっくりと頷いた。


「……うん。本当は複製も見たことないし、絵画なんてこれっぽっちも興味ない」

「じゃあなぜ、ここまで旅を?」

「ナノとイーズといたいから」

「そんな理由で?」

「うん。でもおれにとっては大切な理由」


 ナノは一度うつむいて溜息をつく。

 ステラは明るくて、ナノの膝枕で無防備に眠り、星のような瞳にいつもナノを映す。

 だけどどこか掴みどころがなかった。


「……おれはアヴァリーを裏切ったから、アヴァリーはおれを殺そうとして。だけどイーズがあんな目に遭って、ふたりから離れなくちゃって思ったんだ。けど……できなくて……」

「なんでアヴァリーを裏切った? おとなしく雇われていれば、ちゃんとお金ももらえたかもしれない、命が狙われることもなかった」


「アヴァリーよりも、ナノに、青の絵画を手にしてほしくなった。ナノが望むなら、叶ってほしいって」

「……わたしの望みのために、命を狙われてもいいと思ったの?」

「……それは……」


 ナノの目がじわじわと濡れていく。ステラはそれに気づいたのか、言葉を飲み込むようにして口を結んだ。責めるようにナノはもう一度同じ問いをした。

 ステラが頷いてしまったらどうしよう。違うと言ってほしい。ナノは祈りながらステラの返事を待った。


 ステラが一瞬でも、あの冷たい感覚を受け入れようとしたなら。それも自分の目的のために。

 ステラはナノの腕を引き、自分の腕の中に抱き留めた。熱くて強いのに、拒否するのが躊躇われるほど、ステラは小さく震えていた。


「……ナノの願いが叶いますようにって、そればっかり願っちゃうから。なんもほかのこと考えらんないくらいに」


 ナノはおそるおそるステラの背に手を添え、軽くとんとんと叩くと、ステラはナノの肩に顔を埋めた。

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