第143話

 右肩にかかるステラの重みは、ずっしりしているにも関わらず、この先忘れられないであろうほど優しかった。


 ナノはステラの肩を押して、向き合う形になる。

 ステラの頭に手を伸ばし、しゅんと倒れている耳に触れた。


「ありがとう、ステラ。だけど……ごめん」


 ナノの答えにステラはしばらく黙ったままだった。目元になにか光ったような気がして、ナノはステラの目元に親指を添えた。気のせいだったのか、濡れてはいない。


「ずっと嘘ついててごめん。あと、命を賭けるようなことしてごめん。それと、好きになってごめん」

「……好きになってくれたのは、謝ることじゃない。それはステラの心だ。わたしが否定するものじゃない」

「振っといてそんなこと言う? あーでも、そういうとこ、やっぱ好き。振られといて、こんなこと言うのもなんだけど、ひとつお願いしていい?」


 ステラはナノの太ももあたりをちらりと見やる。

 ナノは正面を向いて、太ももを軽く叩いた。ステラはそこが自分の居場所であるかのように頭を乗せると、眉尻を下げながらまた「ごめん」と言った。


「ステラ、ちゃんと話してくれてありがとう。だいぶ緊張してたな」

「そりゃ緊張するだろ。取りつくしまもないくらいナノに嫌われたら、自業自得だけどやっぱ悲しいし。イーズはそんなことないって言ってくれたけど、わかんないじゃん」

「ふふ。嫌いになんかならない。ステラは大切な仲間だから。ここまで一緒に来てくれてありがとう。一緒に青の絵画を見てほしい」


 ステラはナノに背を向けたまま、小さく肩を揺らして笑った。


「大切な仲間ね。うん、それで十分だ。なあ、もうちょっと膝借りてていい?」

「お気の済むまでどうぞ」


 ステラの頭を撫でると、三角の耳が左右にぴくぴくと動いた。ステラは安心したように小さく笑いをこぼした。

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