第144話

 ステラと別れて部屋に戻る。

 今日手紙を出しに行ったときに受け取った手紙を広げた。差出人はルークだった。ちょうどナノたちがこの街に到着した日に、郵便局に届いていた手紙だ。

 昼間に一度目を通していたけれど、改めて読み直す。


『ナノさん

 お手紙ありがとう。

 この手紙を読んでいるということは、ナノさんは旅を続けているということですね。幼馴染の方のお身体の具合はいかがでしょうか。

 僕としては、もう旅はやめてほしい。これ以上、あなたの身に危険が及ぶのは不本意です。僕がそこにいたら、羽交締めにしてでも止めるのに。


 さて。話を変えます。

 ジャックから気になる情報を得ました。アヴァリーのことです。青の絵画を探すために、人を雇っているようだと以前話していましたが、どうやら獣人の集団に依頼をしていたようです。ですが、彼らも情報を得るのに苦労していた。というより、彼らはアヴァリーの思う働きができなかったようで、また別の人たちを雇っているそうです。


 以前、ナノさんと共に旅をしている獣人がいると仰ってましたね。旅をやめて、その方も連れてこちらへいらしてください。これからのことを考えましょう。


 この手紙が僕のもとへ返送されますように。返送されなければ、そちらへ伺って、引きずってでも旅をやめさせます。


 ルーク・シオン』


 この手紙を読んである程度の心構えはできていたものの、やっぱりステラを疑いたくない気持ちもあった。残念ながら、ルークの予想どおりの結果となってしまった。


 ナノの手にはステラの温もりがまだ残っている。震えた声も、緊張が解けてナノの膝枕で笑う姿も。ナノにとってはそれだけがステラの真実だった。


「ルークさんには、わたしも一緒に謝ろう」


 暗い部屋の中でひとりごちた。あまりに頼りないひとりごとだと自嘲しつつも、ナノはその思いを胸に眠りについた。

 

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