第3話

 風景画に余分なものを書き足されたような光景に、ナノは思わず足を止める。

 玄関の前にいた車椅子の男性と、介助人と思われる男性が同時に振り向いた。


「……ユーリ⁉︎」


 ナノは慌てて男性に駆け寄る。近寄ってみると、ユーリとよく似ていたがまったく別人だとわかった。

 かなり着込んでいるものの、その身体は痩せ細っているのは明らかで、顔色は悪い。息もわずかに荒い。


「……ここは、ユーリ・シオンの家でしょうか。彼に会いにきたのですが」


 車椅子の男が口にする。


「え……あ、はい。でも、ユーリは……もう亡くなっています」


 唐突に残酷な現実を突きつけられたせいか、彼の顔はくしゃりと歪んだ。しかし気力を保とうと、ぐっと唇を噛みしめてから、一度浅い呼吸をする。


「そうですか……失礼ですが、あなたは?」


 こういうとき、どんな言い方をしたらいいのか。ナノはいつも困ってしまう。ユーリはナノを娘だと言っていた覚えもないし、親子と言っていいのか。


「同居人……でした。わたしはナノ・ビオレタといいます」

「ナノ……ああ、あなたが!」


 名乗ると、車椅子の男性は青白い顔のまま、花が咲くように微笑んだ。


「外じゃなんですし、よかったらどうぞ。お茶の準備をします」


 ナノは彼らをリビングに通す。きんと冷たい空気の張り詰めた部屋では、白い息が浮かんで消える。慌ててストーブに火をつけて、車椅子の彼は毛布で包んだ。


 赤ん坊のように包まれた彼は、顔をくしゃっとさせて笑う。笑顔がユーリに似ていた。


「申し遅れました。僕はルーク・シオン。ユーリ兄さんの弟です。こっちは執事のジャック」

「ユーリに弟さんが!」


 初耳だった。そもそもユーリはあまり家族の話をあまりしなかった。考えれば当然だが、ユーリにだってナノ以外の家族がいたはずなのに。


 ──だから、ユーリに似ているわけだ!

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