第2話

 休みになると、ユーリはよく絵を描いていた。ユーリは絵が得意だった。

 スケッチブックには窓からの風景、ナノの顔、村の人たちの姿、あと悪意のある似顔絵など、たくさんの絵があった。ユーリが絵を描くのを横から見るのがナノは大好きだった。思い出せるのはそのくらいだ。


 朝食を済ませて村の共同墓地へ向かう。

 墓地はナノが住んでいるヴェルデ村の端にある。ナノの家から二十分くらいの距離にあって、やや遠くはあるけれど歩くのに苦ではない距離。いっそのこともっと離れた場所ならば足も遠のくのだろうか。ナノはそんなことをぼんやりと考える。


 あの夏の暑さはすっかり消え、かわりに雪がちらついていた。


「ユーリ。ユーリが嫌いな冬が来た。土の下は寒くないか」


 ユーリは年中温かい街で生まれたのだとよくナノに話をしてくれた。

 そのせいかユーリは寒いのがとにかく苦手で、いつも分厚いセーターを着て、顔の半分が埋まってしまうほど長いマフラーを何重にも巻いていた。


 仕事に行くときはぶつぶつと文句を垂れ、ドアを開けては寒さに震え、ドアを閉めていた。それを最低三回は繰り返してから仕事に出かけていた。バタン、と大げさにドアを閉める日もあった。


 そんなユーリがこの寒い空の下で眠っている。


 ──棺の中は暖かいのか?


 心の中でそう問うた。なんとなく声には出せなかった。

 墓石の薄い埃をはらって、花を供えた。また来るね、と言うと冷たい風が弱々しく吹いた。


 墓地を出て、商店で買い物を済ませてから、自宅へ戻る。商店のおばさんが売れ残りだからと持たせてくれた唐辛子を両手で抱えながら坂を登る。


 今晩はたっぷり唐辛子入りのスープを作ろう。身体の芯から温まるような。

 坂を登りきったところに古い小屋がある。ナノの家だ。いつもの光景の中に、異質な存在がぽつんといた。

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