1 旅の始まり

第1話

 朝日が窓から差し込んで、ナノを叩き起こす。

 ベッドの中でもぞもぞと動きながら、寒さから逃げようとする。だけど、すっかり冷えきった鼻を温める手段はなくて、覚悟を決めてベッドから出た。


 ──久しぶりにユーリの夢を見た……。


 夏を涼しいと言ったユーリの声、指先の冷たさ──ユーリが亡くなったときの感覚が両手によみがえる。

 ナノはぶるりと身体を震わせる。寝室を出てからすぐにストーブの前に向かった。マッチを擦る音が静かな部屋に響く。


 ストーブに手をかざすと、氷が溶けるように指先が柔らかくなった。両手をこすり合わせて息を吐きかけ、冷たくなった鼻を両手で包んだ。

 壁にかけていたカレンダーにちらりと目をやる。


 ──もう半年も経つのか。


 ユーリの葬儀を思い出していた。

 村の人たちが協力してくれて、ナノのかわりに葬儀の準備を進めてくれた。ユーリが働いていた農場のおじさんは、ユーリのために立派な棺を作ってくれたし、村役場のお兄さんは墓地の手配や葬儀の手続き関係をほぼやってくれた。


 こんなに人に恵まれていたのかと感謝するいっぽうで、ユーリの死にあたって必要なことが済むたびに、身体の中身がこそぎ取られて、ついには空っぽになるようだった。


 なにを注いでもきっと満たされず、しまいには消えるのだろうと思っていたけれど、ナノはこうして冬を迎えている。


 今日は仕事も休みだし、なにをしよう。ナノはお湯を沸かしながら今日の予定を頭の中で組み立てる。

 まずはユーリの墓参り。それから夕飯の買い物。部屋の掃除。


 ──いつもと変わらないな……。


 予定といっても、さほど変わり映えはしない。仕事があるか、お休みか。大きな違いはそれくらいだ。

 ユーリがいた頃は休みの過ごし方にもう少しバリエーションがあったはずなのに、ひとりになるとなにをしていたか思い出せない。

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