第30話

 翌朝、三人は山道を抜け港町へ向かっていた。肌に刺さるような寒さではあるものの、雲ひとつない快晴だった。


 このまま行けば、今日の昼頃には港町に到着する。到着したら食料と必要物資を調達して、船の出航時刻を調べなくては。やるべきことを頭の中で整理していたら、イーズが「まずは身体を休めることが先決」と苦笑していた。


 山の中で過ごしたのはほんの数日ではあったけれど、思いのほか体力を消耗したらしく、ナノには港町がとても遠く感じられた。少し歩いただけで息切れもするし、背中に石でもくくりつけられているように身体も重かった。


 途中、川を見つけて休憩をする。腹が減ったと言いながらステラとイーズが魚を捕まえていた。どちらが多く捕ったのか、と小さな言い合いをしていたが、首を突っ込むのも面倒だったのでナノはなにも言わずに火おこしに専念していた。


「なあ、これから会いに行くユーリの友人ってどんなやつ? 名前、なんていったっけ……」

「レオ・ブルースター。タトゥーの彫り師なんだ。わたしも二度くらいしか会ったことがないが、気さくで優しい人だ。このタトゥーを彫ったのもレオさんなんだぞ」


 ナノは左腕のタトゥーのあるあたりを指さした。


「そのレオってやつが、『青の絵画』の場所を知ってるのか?」

「……知らない可能性が高い。だけどユーリとは付き合いが長いから、なにかヒントになる話を聞けるかもしれない。レオさんのほうでもいろいろ調べてくれるらしい」


 なるほど、と言いながらステラは焼き魚を頬張る。猫の獣人だけあって、魚を食べるのが上手だった。頭と骨が標本のようにきっちりと残っていた。

 指先をぺろりと舐めてステラは立ち上がる。用を足してくると森の中に消えた。黒い尻尾がぴんと立っていた。


 イーズとふたりになり、川のせせらぎだけが響いている。ナノはステラが消えた方向を一度だけ見てから、イーズに目配せをする。


「イーズ。ステラと旅をするのはやっぱりいやか?」

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