第29話
「毎日うっすらと血の匂いが漂うような街で、学校もなけりゃきれいな病院もねえ。だけどそれを当然のことだと思ってるから、変えようとも思わないやつらが残り続けている。いいところを強いて挙げるなら……夜に星がきれいに見えるくらいか。星なんてだれも見やしねえけど」
ステラは抑揚のない口調でそう言うと、洞窟の外に出た。
反射的にナノとイーズはそれを追いかける。ステラは面倒くさそうな顔でふたりを交互に見てから、行き場のない視線を空へ向けた。真似るようにしてナノとイーズも空を見上げる。
小さな星々が砂のように暗い空の中を流れていた。その中にはひときわ明るい星も、目を凝らさないと見えにくい星もあった。
「あの星を全部売れたら、おれは金持ちになれんのかなって小さい頃思ってたことがある。そうすればこんな暮らしじゃなくていいのになあって。お金さえあれば、いろんなことが叶うのに。お金に愛されてえよなあ」
ステラは空に向かって両腕を伸ばす。届きもしない空に、星に向かって、泳いでいくように手を動かした。当然だけれど、ステラの手にはなにも残らない。
ナノも空に向かって手を伸ばしてみた。ステラの求めるものが手に入るような気がしたけれど、やっぱりなにもない。
「……おまえはちびだから、届かねえだろ」
「ちびは関係ないぞ。ステラだって届いていないじゃないか。一番大きいイーズですら届かない」
「……だれも届かないって、もうそれ絶望的じゃん」
ステラは腕を組んで呆れたように笑う。それから寒い、と言いながら洞窟の中に戻った。
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