第28話

 ステラの疑問はもっともだと思ったし、なんならナノもかつては同じようなことを考えていたけれど、直接尋ねることはなかった。ナノもイーズの答えに興味があった。


「……ユーリにナノをよろしくって言われてたし。その……不服だけど僕もステラの言うとおり、傷痕なんてそんなにからかうものでもないって思ってたから」


 不服はなくね、とステラがイーズの腕を叩く。急に叩かれたイーズはよろめいてしまい右手のパンを落としそうになった。どうにか死守していたが、明らかに不機嫌そうな顔をステラへ向けると、ステラは声を上擦らせて笑った。


 そんなふたりを前に、ナノも食事を再開する。火がついた枝が弾ける音と、三人の話し声が静かだった洞窟内に響きわたる。


 ──こんなに賑やかな食事は久しぶりだな。


 ナノの口元は自然と緩む。

 ただ、もう少しふたりが仲よくしてくれれば──とは思う。理由は違えど、青の絵画を見たいという目的は同じだし、こうして出会えた縁もあるし、できることなら和やかに旅をしたい。


 いっぽうで、ナノとしてもステラへの疑念が晴れたわけでもなかった。自分もイーズもステラのことをよく知らないから疑ってしまうのかもしれない。幼い頃にこの傷のことをからかった、あの子たちのように。


「ステラはどこの生まれなんだ? わたしはステラのことを全然知らないから教えてほしい」

「生まれは南のほうだよ。獣人が住む地区の中でも、貧しくて治安も悪いとこ」


 ナノは学校の授業を思い出す。獣人はその昔、ひどい差別にあっていて土地も資源も奪われ、貧しい土地に追いやられた。今でこそ獣人と人間は共存して生きているけれども、地域によってはまだまだ差別が根強く残っている。


 ステラのいう南のほう、とは年中暑さが続き、雨が少なく乾いた土地だとナノは記憶していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る