第27話

 和やかに笑っていたのに、急に火を消したようにイーズの顔が険しくなる。ステラは後ろに手をつき、不快そうに目を細めた。


「……気をつけろって話だよ」

「それはきみに気をつけろってこと?」

「ちげえよ。ユーリの絵にはそれだけの価値があるって意味。村の外を知らないおまえらは理解できねえと思うけど」


 またふたりの間に険悪な空気が流れる。ナノは鞄の中を探り、あの香辛料が入った瓶を取り出す。ふたに手をかけると、イーズとステラは大きな声を上げながらナノから瓶を取りあげた。

 イーズはわざとらしく一度咳ばらいをして、ナノのタトゥーに目をやる。


「……タトゥーを入れるまでは、毎日傷隠しのペイントをしていたよね。花とか動物とか描いてたの覚えてる」


 幼い頃のことは、ナノの中で鮮明に残っている。


 左腕の傷を学校でからかわれめそめそ泣くナノを見かねて、ユーリが傷を隠すための絵を腕に描いてくれた。初めて描いてくれたのはひまわりだった。それから毎晩、風呂あがりに絵を描いてくれるようになり、ナノは夜を楽しみにしていた。


 赤黒い傷痕の上に鮮やかな色を乗せたり、もとの色を生かしたりと、ユーリは様々な工夫をこらし絵を描いた。しかし、絵は汗をかけばはがれていくし、ナノが学校から帰る頃には形も色も変わっていた。


「傷痕くらいでそんなにからかわれるもんか? 生きてりゃひとつふたつ残る傷なんてあるだろ」

「わたしは移住者でもあったから。子どもにとってよく知らない存在はこわいものだろうし、傷痕はわたしをはねのける理由になったんだろう。わたしはよくイーズの後ろに隠れていたな」

「ふうん。イーズはナノを守ってたんだ。いい子だねえ。そういうのめんどくさいって思ったことない?」


 イーズはパンを咀嚼しながら、ステラをじとっと見る。

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