第26話

 三人で今日の夕飯の支度をする。先日立ち寄った街で調達していた干し肉と、近くで摘んだ山菜を炒めておかずにした。パンも火で軽くあぶると、表面がきつね色になり香ばしい匂いが立ち込める。


 ナノが香辛料の瓶を開けようとしたところ、イーズとステラは勢いよく制止した。なんだ息がぴったりだ、とナノが笑うとふたりは揃って口を尖らせた。


「ナノってさあ、見た目と違って結構激しめなのな」


 ステラはナノの左腕を指さす。腕まくりをしていたので、マーメイドのタトゥーがあらわになっていた。


「ごついタトゥーだよな、それ」

「ああ、これはその……傷を隠すために入れてもらったんだ」


 ナノは腕をステラに近づける。ステラがまじまじと腕を見たり、指で撫でたりする。一部だけ色と触り心地が違うところを見つけたらしく、あっ、とステラが声を上げた。


「結構でかい傷じゃね? どうしたんだよ、これ」

「記憶はおぼろげなんだが、小さい頃に火事にあったらしい。そのときにやけどをして、そのまま痕になってしまった。その傷がいやで仕方なかったんだ」


 ナノの前腕の真ん中あたりから肘へ向かって泳ぐマーメイドは、シルエットだけで顔の表情は描かれておらず、波や魚と戯れている。絵画みたいだな、とステラがもらした。


「そりゃあそうだ。これはユーリが元の絵を描いてくれたんだから」

「は? まじかよ」


 信じられないと言わんばかりのステラの顔を見て、ナノとイーズは思わず吹き出した。ステラがそこまで驚くとは予想もしていなかったからだ。


 笑われていることを気にすることもなく、ステラはナノの腕を改めて見つめる。マーメイドの尾ひれの部分を人さし指で撫でながら、なにやら考えるそぶりを見せた。


「……となると、ナノもユーリの作品のひとつみたいなもんだな。おまえを欲しがる人間もいるかもしれねえな」

「ステラ、その言い方はちょっと」

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