第25話
瓶のふたを開けただけで周辺の温度が上がりそうだ。ナノはその空気を恍惚としながら吸い込むが、イーズとステラは鼻を塞ぎ、目を潤ませる。
「フギャ! 早くしまえよばか!」
「げほげほ。ふたを開けただけでこの威力……」
「これを鼻に塗る。覚悟しておけ」
そう言ってナノは瓶のふたを閉じる。閉じてもあたりには香辛料の臭いが漂い続けていて、ステラはしばらくくしゃみをしていた。
ひとまず郵便局へ行き、ルークへの手紙を出す。ステラも手紙を出していた。家族宛なのだと話していた。
「ステラの家族はどんな人たちなんだ? やっぱり獣人なのか」
「うん。どこにでもいる普通の家族だよ。なんも特別なことはない」
「ステラの家族も、ステラみたいなきれいな目をしているのか?」
「きれい? そうかね」
ステラは困ったように笑う。目がきれいだと言われたのは初めてらしかった。明るい星のような色だと伝えたら、さらに困らせてしまった。
「きれいではねえだろ。濁ってるよ」
「そうか? わたしはきれいだと思う」
「……そりゃ、どうも。また気が向いたら褒めてよ」
ステラは手紙を局員に渡して、先にイーズのもとへ向かう。ナノもその後を追うようにして慌てて手紙を出した。
それから食料を調達して街を出る。街の端には『いってらっしゃいませ、おかえりなさい』と書かれた門がある。門番がぺこりとお辞儀をして、そのうちのひとりに通行料を支払った。
お気をつけて、と門番の落ちついた声を背に三人は目的地に向けて歩きだした。
ひとまず港町を目指したものの、山道が思いのほか厳しく、三人はなかなかたどり着けなかった。がくがくと震える膝を押さえながら、ようやく洞窟を見つけ、そこに留まった。
枝を集めて火をつけると、身体がチョコレートのように溶けてしまいそうになる。三人は火を囲んでほうっと息を吐いた。
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