第24話

 ナノは頷いた。ルークには進捗を報告すると約束したにもかかわらず、レオから返事が来ていることも、村を出たことも報告できていない。ずっと気になっていたので、昨晩手紙を書いておいた。


「ユーリって弟がいるのか。弟は『青の絵画』の場所を知らねえのか」

「知ってたらわざわざ旅なんか出ないよ」


 イーズがぴしゃりと返す。むっとしたステラは挑発的にイーズの顔を覗き込む。


「なんだ? 低血圧か?」

「べつに」


 今朝の様子から、イーズはいつものイーズに戻ったのだとナノは安堵していたが、どうやらそうでもなかったらしい。


 それにしても、聖人のようなイーズをここまで不機嫌にさせるとは。いくらステラが怪しいとはいえ、ここまであからさまに不機嫌なイーズは、ナノにとっても初めてだった。


 なにがイーズをそうさせるのかとも思っていたが、とやかく考えている場合ではなく、ナノはふたりの間に割って入る。


「けんかはやめろ。たしかにステラはすごく怪しいが」

「えぇ、ナノもおれのこと疑ってんのかよ」


 ステラは口を尖らせているものの、明らかな怒りはないようだった。


「怪しさ満点だけど、複製でも見たことがあるのなら頼りになる。それに……ユーリの絵を見たいと願ってくれるのであれば、諦めてほしくないんだ」


 ナノの脳裏に亡くなる直前のユーリと、車椅子に座っているルークが浮かぶ。ふたりとも、どこかに諦めを含んだように笑っていた。


 諦めなくてはいけないことがこの世にはわんさかある。数えればきりがない。だけどナノはステラにふたりのような顔をさせたくなかった。なんとなく。

 ステラは真顔で聞いていた。わずかに唇を噛みしめている。


「万が一なにかしでかしたら、わたしがステラの鼻にこれを塗る」


 ナノは鞄から小瓶を取り出した。中身は昨晩のスープに使われていた秘伝の香辛料だ。ナノが絶賛していたら、店員が持たせてくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る