第23話

 翌朝、ナノは少し早く目を覚ました。起き抜けに水を一杯飲み、朝の空気をめいっぱい取り込む。冷たくどこかざらついた空気に、ほんの少し胸が痛んだ。


 ヴェルデ村の朝と無意識に比べてしまう。きっと村を出たばかりだからだと思うことにしたが、それはつまりいつか村以外の空気に慣れて、村の空気が少しずつ身体の中から薄まっていくことにならないか、と気づく。


 とりあえずナノは服を着替え、ぼさぼさ頭を軽く押さえつけた。


 それから荷物を整理する。といっても荷物を軽くするため、あまり無駄なものを持ってきていない。イーズの母親が持たせてくれた乾パンがリュックの底を占有している。小腹が空いて、ひとつそれを口に含んだ。


 部屋のドアをノックする音が聞こえた。すぐにドアノブに手をかけたが、『ドアをすぐに開けちゃだめだよ』と昨晩イーズに言われたことを思い出し、一度咳ばらいをしてから、どちら様とナノなりにどすを効かせてみた。


 イーズだよ、と返ってきたのでそっとドアを開ける。隙間から穏やかなイーズの顔が見えた。


「おはよ。よく眠れた?」

「うん、爆睡だった」

「それならよかった。もう出発できそう?」


 ナノはこっくりと頷いて部屋を出た。ドアの外の空気はもっとざらざらしているように思えた。

 宿の主人から焼きたてのパンを分けてもらい、食べながら街を歩く。パンは弾力があり、中のバターが溶けかかっていた。


 待ち合わせ場所に到着すると、ステラが眠そうな顔で立っていた。ふたりに気づくなり、あくびをしながらおはよう、と言う。


「ステラ、よく眠れたか?」

「ぼちぼち。つーか、うまそうなもん食ってんじゃん。いいなあ」

「もうひとつ残っているから食べるといい。ほら」


 紙袋からパンをひとつ取り出してステラに与える。ステラは礼を言い終える前にパンにかぶりついていた。


「出発前に郵便局に寄りたい」

「ああ、ユーリの弟さんに手紙を出すんだっけ?」

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