第22話

 ナノが、ステラ、とか細い声で呼ぶと、なあに? と跳ねるような声で返す。細めた目の、金色の瞳がわずかに揺れていた。


 ──きれい。お星さまみたいだ。


 また見惚れてしまいそうになったが、イーズに名前を呼ばれてはっと我に返った。


 

 明朝に落ち合う約束をしてステラと別れた。

 帰り道、イーズはいつものイーズに戻っていたけれど、ナノはどこか落ちつかない。


「ナノ? さっきから様子が変だけど」

「あ……いや、その……」

「ステラのこと、気になる?」

「それもなんだけど……その、イーズは……人を殺したことがあるのか」


 イーズは困ったように笑いながら、しっかりとした口調でそれを否定した。いつもの笑顔に安心しつつも、目の前のイーズはナノが知っているイーズでない気がした。


「軍隊とか警察隊の養成校だから、まあ、戦闘訓練はするよ。だけど人を殺すためじゃない。僕は人を守るためだと思ってる。偽善に聞こえるかもしれないけれど」


 ナノは頭がもげそうなほど、首を横に振った。


 それでも、いつかイーズがだれかを手にかける日が来てしまったら。ステラのことだって、イーズなら本当にやるかもしれないとちらりと思ってしまったのも事実で、そのときのことを想像したらナノはなにも言えなくなった。


「ごめんね。怖がらせて」

「わたしこそ、ごめん。イーズはいいやつだって、十分わかってるつもりだったのに」


 イーズは目を細めた。

 傷ついた自分を自分で手当するかのように、その手当てがいびつで雑で、本当は手当てにもなっていないとしても平気を装う。そんな顔だった。

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