第21話

「ほほう、おれのこと疑ってるんだねお兄さん。まあ、たしかに怪しいわな。急に声をかけてきて、一緒に旅させてくれなんて」

「自分でわかってるんじゃない」

「疑われてでも、果たしたい目的があるんだよ。だけど……これで信じてくれねえかな」


 ステラは鞄の中から小さなナイフを取り出した。イーズの前に置くと、不敵な笑みを浮かべる。


「おれを怪しいと思った瞬間に殺してくれていいぜ。おれにはそれほどの覚悟がある。見たところ、あんたは人を殺す訓練を受けてるね? 余裕だろ、おれひとりを殺すくらい」


 ステラはイーズの手首をつかみ、手のひらを上に向けた。皮は厚く固い。まめが潰れては治ったような痕がいくつもあった。剣を握り鍛錬した者の手だった。


 イーズの目から光がなくなる。今にもステラを手にかけそうな雰囲気にナノは息を呑む。

 イーズはナイフを手にすると、その刃先を確かめてから自分の鞄にしまい込んだ。


「わかった。きみがおかしなことをすれば、遠慮なくやらせてもらう。一応聞くけど、今の話に嘘はないな」


 ふたりが視線をぶつけ合う。逸らしたほうが命を取られそうな雰囲気さえある。先にステラの表情が動いた。薄い唇を歪ませて、無言でイーズの問いに対して肯定する。


「ま……仲よくしてくれよ。旅に危険はつきものだし、護衛もするぜ。一応腕っぷしにはそこそこ自信ある」

「……そうならないように祈ってるよ。言っとくけど、僕はナノしか守るつもりないから」


 そう言ってふたりはようやく視線を外し合う。

 ナノは湿った手のひらをこっそり服の裾で拭き、ふたりに声をかけた。イーズはいつもの優しい目に戻っていたし、ステラもなにごともなかったかのように水を飲んでいた。


「で、ナノはどう?」

「え、えと……うん、よろしくステラさん」

「ステラさんなんて堅苦しい。ステラでいいよ、ナノ」

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