第129話

「ネモさん、けがをしてるからわたしが手伝う。座っててください」

「ワシひとりでできる! じゃが、手伝いたいのなら好きにせい」

「は、はい。わたしが持っていくから、ネモさんは座っててください」


 その横でイーズとステラも皿を並べたり、コーヒーを運んだりと動く。ネモはそんな三人を現場監督のようにじっと見ていた。


「……なんかやりづれえな……」

「でも手作りケーキにお取り寄せの高級コーヒーって……歓迎はされてるのかなあ」


 イーズとステラはネモに聞こえないよう声を潜めた。


「イーズ! ステラ! 早う座らんかい!」


 ネモに急かされ、ふたりはいそいそとソファに腰掛ける。

 ナノはタルトを口に運ぶ。甘酸っぱいフルーツの香りが口いっぱいに広がった。頬が落ちそう、というのを身をもって感じる。


 うまいうまいと連呼するナノに、ネモはそのまま鼻の先が伸びそうなほど顔を上向きにする。腕を組みながらふふん、と言っていた。


「部屋は余っておる。しばらく好きに使うといい」

「ありがとうございます。ネモさんもそのけがだし、困っていることがあったら言ってください」


「だいぶ派手にけがしてますよね。どうしたんすか、それ」

「あん? 骨が折れたんじゃい。山の中で転げ落ちてな!」

「骨折ですか。それは大変」


 イーズの気遣わしげな目を、ネモは豪快な笑いで跳ね返す。ギプスで固められた足を軽く揺らす。


「山の中で染料の材料を採るのに夢中になっていたら、坂を転げ落ちたんじゃ」

「へー。山で材料が採れるんすね」


 ステラがケーキを頬張りながら言った。するとネモはよっこらしょ、と言いながら立ち上がると、奥の部屋に行きすぐに戻ってきた。


 ネモがぱっと手を広げると黒い石があった。ナノが手に取り、三人で覗き込む。光の加減で群青色にも見えるし、銀色にも見える。不思議な石だった。

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