第130話
「この地域で採れるもんでな。これを処理して塗料にする。処理方法次第でいろんな塗料になるんじゃ。ああ、レオさんが使う染料もこの石からできたもんじゃな」
ネモは頬を染め、子どものようにはしゃぎながら説明する。ナノがぱっと手を開くとところどころ青くなっていた。
「じゃあ、これもネモさんが?」
ナノは腕まくりをしてネモにタトゥーを見せた。おお、とナノの腕をつかむと愛おしそうに眺め、美しいのう、と目を細めていた。
「これはユーリの絵じゃな。あいつは絵を描き続けておったんか」
「いえ……画家としては……。ただやっぱり絵は好きで、よくデッサンみたいなものを描いていました。タトゥーを入れたいと言ったら、描いてくれたんです」
「ふん。あいつから絵を取ったらなにも残らんというのに。ワシが作った塗料で、やつは青の絵画を描いたんじゃ。徹夜して作ってやったのに、『なんか違うな』などと言いおって……思い出しただけで腹が立つの」
腹が立つと言いながらも、ネモはどこか穏やかな顔をしていた。と同時にもうユーリがいない現実を嘆いているふうでもあった。
「して、青の絵画の所在だったのう。連れてってやりたいんじゃが、急ぎの仕事が入ってしまっての。お得意さんなんじゃ。少し時間をくれんか」
「連れてって、ってここから離れた場所にあるんすか」
「よう喋る黒猫じゃのう。そうじゃよ。少し離れた場所になるが、絵画を隠しておる。とはいえ、もう絵画とは呼べぬかもしれんが……まあよい」
ネモはコーヒーをすする。あちっ、と小さく言った後は慎重な飲み方になっていた。
ネモのもとに到着してから早くも三日が経った。
ネモが住む街は比較的寒い日が続き、夏らしい夏はないのだと教えてもらった。
ネモは元々、獣人地区の北のほうで生まれた。寒冷地ではあったものの、芸術の街と呼ばれ華やかな街だったそうだ。祖父と暮らしながら、幼い頃から芸術と共に生き祖父の仕事を手伝っていた。
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