第49話
「……なにか目的があって、それが叶えられる分だけあれば十分じゃないか? あ、ステラは旅費のほかに欲しいものでもあるのか?」
ステラは言葉を口の中で転がすようにもごもごしてから、べつに、と腕を組んだまま黙り込んでしまった。
「なんだ。そんなに言えないようなものが欲しいのか?」
「うるせえな。べつに……おれはとにかく金が欲しいの。金さえありゃ生きていけるだろ」
噛みつくような勢いでステラは声を荒げた。ナノが思わず身を固くすると、ステラは気まずそうに頭をかいた。
星空を眺めて、すべてをお金に換えたいと願うくらいには、ステラはかつてお金で苦労をしていた。その経験からこんなことを言うのだろう。
それでも、ナノにとってはお金でどうにもならないことがこの世界にはごまんと溢れていることのほうが、お金がないことよりもつらい。
お金なんて、いざというときには味方になってくれはしない。それをステラの前で言うのは、あまりに無神経だろうか。
「おやおや、お店の中で喧嘩はしないでおくれ」
奥から店主が腰をさすりながら歩いてくる。左手にはステラのブーツを持っていて、見違えるほどにぴかぴかになっていた。
「すげえ、新品みたいだ! 履き始めた頃よりきれいな気がする」
「ぼくの手にかかればなんてことないさ。それに、この靴はもともといいものだった。これ、高かったんじゃないのかい?」
「……この靴、お古だから、高いかはどうかはわかんねえっす。もらったときは既に汚れてたし」
「そうかい。きみが大切に履き続けてたんだね」
そう言って店主は顎ひげを撫でた。店主に満足そうに微笑まれたステラはしっぽと耳をぴくぴくと動かし、拗ねたように目線を下げる。
きれいになったブーツに足を入れると、ステラの顔がわずかに赤らんだ。両足を入れてその場で足踏みをする姿はなんだか子どものようで、ナノは無意識に顔が緩んだ。
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