第97話

 倒れ込むイーズに駆け寄り、ナノは声をかけ続けた。イーズは息を荒げ、歯を食いしばっている。傷口を手で押さえていたけれど、血が止まる様子はなかった。白いシャツが真っ赤に染まり、肌にぴったりとくっつく。


「あいつ! あいつを捕まえてくれ!」


 ステラが旅人を指さすが、旅人は軽い身のこなしで街の中に消えてしまった。


「イーズ……!」


 ナノの目の前がゆらゆらと歪み、全身の制御が効かなくなったみたいに、身体ががちがちと震えた。

 ステラがイーズの鞄からブランケットを取り出して、傷口を押さえるけれども、イーズの目はだんだんと虚ろになっていく。


「イーズ、しっかりしろ! おい! ナノ、医者呼んできて!」


 ナノはよろよろと立ち上がり、その場から駆け出した。心臓が弾けてしまいそうなほど大きく鳴っているのに、指先はひんやりしていた。

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