第75話

「……ユーリが話していたことがあるの。青の絵画を三枚描いているけれど、完成させていないんだって。当時は不思議に思っていたけれど、売却されるのを先延ばししてたのかしら。未完成の絵を売るわけにはいかないでしょうし、アヴァリーは完成を待って売るつもりだったんでしょう」


「ユーリは未完成だと言ったまま……手元に残っている原画を持ち出して、どこかに隠したまま亡くなったってことか。ユーリならやりそう」


 イーズの言葉にレオは苦々しい笑みを浮かべる。


「でも、ユーリはわたしを引き取った後はすぐにヴェルデ村へ引っ越している。絵なんて描いていなかったと思う。青の絵画の残りは未完成のままなのだろうか」

「未完成のまま隠してるなんてあるのかよ。ユーリが引っ越す前に仕上げて売ったとか、破棄したとか、その可能性は……」


 レオが顎に手を当ててしばらく考える。レオの口からは「ありえない」と切れ味のいい刃物のように言い放たれた。


「売却は絶対にありえない。そもそも売るつもりで描いていないもの。破棄もあんまり考えられないわね。考えられるとしたら……だれかに預けている……」


 そう言いかけてレオは額に手を当ててうなだれた。軽く唇を噛みしめ、目を閉じている。

 ナノはレオの背中に手を添えた。レオの気持ちが痛いほどわかった。


「……もしかしたら、あの子かしら……」


 レオはがたっと立ち上がる。


「心当たりがある。少し時間をもらえないかしら」

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