第155話
ステラとネモの声が洞窟内に反響して、波の音をかき消す。暗い洞窟が、まるで家のように温かくて賑やかになって、ここがどこだったかをナノは忘れかけてしまうほどだった。
四人は次の干潮を待つ。ネモによれば干潮の時間は昼間頃らしい。話をしたり、仮眠を取ったり、食事をしたり。各々の過ごし方で時間を潰していた。
ナノは洞窟から出て、近くの砂浜で朝焼けを待っていた。空はまだ夜のほうが広がっているけれど、徐々に明るくなって、紫色に染まりつつあった。
ひんやりとした空気のせいで鼻の頭が痛い。マフラーを顔の半分まで巻いて海と空を眺めていた。
青の絵画と出会えた。絵を見たところで、ユーリの心中はすべてわからなかったけれど、当時のユーリがアイを深く想っていたこと、アイの死によってひどく苦しんだこと、もがきながらも生きようとしたこと──それらが断片的にナノの中に流れ込んだ気がした。
この絵を朽ちさせたかったユーリとしては不本意かもしれないけれど、ナノは青の絵画と出会えたことを幸せに思う。
雲の切れ間から真っ直ぐに光が伸びて、水平線のむこうから世界を照らすように太陽がのぼり朝を告げていた。歩いてきた道はすっかり海水の下に隠れている。紫色の空と、金色の光。いろんな色が混ざり合って、ほんの少しだけ胸が苦しくなった。
「きれいだね」
背後からイーズに声をかけられ、ゆっくりと振り向く。ちょうどイーズの顔に光が当たって、イーズは手を額に当て目を細めていた。
ナノの隣に腰を下ろして、朝焼けを眺める。その横顔はいつも隣で見るイーズのはずなのに、ナノはつい目で追ってしまった。
イーズは景色にしばらく見惚れていたけれど、不意にナノのほうを振り向く。見つめていたことがばれてしまうのは気恥ずかしく、ナノは思わず視線を落とす。イーズは特に気づいていない様子だった。
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