第154話
「……それは、どうして」
「どんなに絵を描いても、アイの死を受け入れきれんかったんじゃ。それでも、この絵が朽ちるまでに向き合おうと自ら課した。まあ、結局朽ちるわけもなく……ふふ、結局は受け入れられないままということじゃ。しかしのう、もうちょっと傷んでくれれば、ワシも……」
ナノは絵画を袋に戻し、ネモの手を握る。ネモは強がりさえせず、涙をにじませて笑ったままだった。
「ネモさん、わたしはこの絵が朽ちていなくてよかったと思う。形あるものはいつかなくなってしまうし、それを認めなくちゃいけないのかもしれない。だけど……受け入れないまま、どこかで本当は生きてくれているのかもしれないと思って、生きるのだって悪いことじゃないと……思いたい」
「気持ちは嬉しいが、そう言ってくれるな。あのときのユーリは……ワシは、こんなことしか思いつかんかったんじゃ。こうでもしないと、前を向けなかった。アイのいない世界を受け入れて、生きねばならんと……」
ナノはネモの身体を両腕で包む。銀色の耳を撫でると、ネモはくすぐったそうに笑った。
受け入れなくてはいけない。そんなことを言い始めたのはだれだろう。それができない者を愚か者扱いしたのはだれだろう。
ネモの身体はこんなに温かいのだから、それでいいではないか。
ユーリだってそうだった。だから愛してしまった。
「……ナノ、ありがとう。おまえは温かいのう」
「ネモさんだって」
「嬉しいのう。じゃが、後ろのふたりの羨ましそうな視線が、ちょっと痛いのう」
ネモはにやりと白い歯を見せた。ナノが振り返ると、イーズとステラはぐっと目を見開き急襲を受けたような顔をしていた。
「すけべな顔しおって」
「してねえよ!」
「ワシがまとめて抱いてやろうか」
「いらねえよ!」
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