第168話
「はあ、ますます悔しいのう。あんな男の手に渡ってしまって」
「ええ。だけど、この件はひとまずおしまいです。それぞれの生活に戻ってください。僕からのお願いです」
ルークはまた頭を下げる。
この結末にだれひとりとして納得できなかった。不条理を飲み込んで生きていかなければならない悔しさが、腹の中でふつふつと燃えている。
それがよくも悪くも、なにかしらの力を持つ者には敵わない。それを痛いほど思い知らされた。
そして、ルークに青の絵画を見せてやれなかった無念が重くのしかかる。せめて一枚だけでも守れていたら。自分の無力さに握った拳が震えた。
「……ナノさん、そんな顔をさせる結果になってごめんね。ここまで旅を続けてくれてありがとう。兄さんはあなたに愛されて、とても幸せだったと思う」
ナノは首を横に振る。
ルークは笑みを携えてこそいるけれど、長いまつ毛がわずかに震えて、瞳はうっすらと潤み、薄い唇をときおり噛み締めたりしていた。
こんなところでナノが泣くわけにはいかないと頭でわかっているのに、目の奥が痛い。大きく息を吸いたいのに、漏れそうな嗚咽が邪魔をする。
隣に座っていたイーズがそっと背中をさすった。なにを言うでもなく、ただそっと。
ナノはすっと息を吸って、空気を飲み込む。それでもルークの言葉に頷くだけ精一杯だった。
その晩はジャックが夕食の支度をしてくれた。ナノも手伝おうとしたけれど、邪魔になってしまいそうだったのでおとなしく座って待っていた。
ネモはとっておきの酒を開けようとしたが、イーズとステラに止められる。骨がきちんとくっつくまで酒は禁止されているのに、ネモはふたりの制止を振り切り、ひと口だけと言いながらがぶがぶワインを飲んでいた。
ルークは穏やかな笑みを浮かべながら、みんなの様子を眺めていた。その横顔がユーリにそっくりで、ナノはつい食い入るように見てしまう。
「……ん? よかったらお隣にどうぞ」
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