第167話

 ステラ、ネモ、ジャックはお茶に口をつけるとほぼ同時に「あちっ」と言った。


「なんにせよ、僕が青の絵画をもう一度見たいと言ったことがすべての原因です。みなさんにはご迷惑をおかけしました」


 ルークは頭を下げたままだった。

 迷惑だなんて。だれも思っていないのに。ルークはそんな慰めすら望んでいる様子はなかった。


「……あの、なんでルークさんは、青の絵画が現存しているって知ってたんですか? アヴァリーですら火事で燃えてしまったと思ってたのに」


 ステラがおそるおそる切り込む。


「えっ、そうだったのか?」

「あっ……う、うん。アヴァリーから、そう聞いてて」


 ルークがナノの元を訪れたことを知り、青の絵画が現存する可能性を知ったアヴァリーは躍起になって絵画を探し、結果的に手に入れたというわけだ。


「ナノさんを引き取ってあの街を出るぎりぎりまで青の絵画を描いていたのも、出ていくときの荷物の中に絵画があるのも知っていましたから。限られた人たち以外には、絵は──青の絵画はもう描けないと言っていたみたいですが」

「おまえにはきちんと話していたんじゃのう」


「ええ。ですが、朽ちさせる目的で描いていたのは知らなかった。いつか僕に見せてくれるのかと勝手に期待していました……兄さんは小さい頃から描いた絵をすべて見せてくれたので。小さい頃の僕にとっては、兄さんの絵が世界のすべてだった。兄さんもそれをわかってた。だから少しだけ、さびしい」


 結局ユーリはあの街を出てから、だれかに連絡を取ることも、画家として絵を描くこともなく、ナノを育てるために慣れない仕事をして結局亡くなった。


 愛しい人のことを思いながら描いた絵が、だんだんと朽ちていくことを心に留めながら生きていた。その事実が、ナノの中に残るユーリの笑顔が、ナノの胸を締めつける。

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