第103話
美味しいだろう、とナノが得意げな顔をしていた。
「どう? 仕事は」
「大変だけど、みんな優しくて楽しくやれている。しょっちゅうユーリが来るのが、ちょっと恥ずかしいけれど……」
「ふふ、ユーリはナノが心配なんだよ」
「……子ども扱いしないでほしいよ。ユーリの中では、わたしはいつまでも泣き虫ナノのままなんだ。わたしももう十四歳だぞ」
ナノはぷくっと頰を膨らませた。
つい数年前までは、悲しいことがあるとよく泣いていたのに、すっかりそれもなくなった。
それとも今でも、我慢をしているのだろうか。イーズの胸に小さく不安が巣食う。
「……ナノ、最近泣かなくなったよね。大丈夫?」
「イーズまでわたしを子ども扱いするのか?」
「違うよ。本気で心配してる」
ナノはなにか言い返そうとしたが、言葉を見つけかねているようだった。イーズの厚意を仇で返したくないのと、子ども扱いされたくないのがナノの中で拮抗しているのは、明らかだった。
ナノはパンを咀嚼しながら、「もう泣いてない」とつぶやいた。
「イーズこそ、結局あの日から一度もわたしの前で泣かなかったな。わたしはいつでも胸を貸すつもりでいたのに」
「……覚えてたんだ」
「忘れないよ。嬉しかったんだから」
「そ、そう」
イーズはそっとナノの頭に触れた。あの日から、ナノに触れようとするとイーズの指先はいつも震えてしまう。迷うような指先をナノに知られないように、そっと手を置くのがイーズの癖になった。
知られたくないなら、触れなければいいのに。癖のようにナノに触れようとしてしまう。
そんな自分をどういう言葉で表現するのか、イーズはうすうすわかり始めていた。それをナノに伝えるのがとても難しいということも。
「さて。仕事に戻るか……ん? あれは……」
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