第102話
「ごめん、ナノ。僕が……」
「ちがうんだ。イーズの、前だと、あんしん、しちゃってええ……」
いつもナノの泣き顔を見ては怒りすら感じていたのに、今はあのときのユーリの気持ちが少しだけ理解できた。
ナノの頭を自分の胸の中に収め、ユーリになったつもりでナノに接してみた。ユーリのような大人の身体ではないから、なんだかぎこちない体勢になってしまう。
「ナノ、泣かないように我慢してえらい。だけど、僕の前では泣いていいよ」
「ううっ……ぐずっ……じゃあ、イーズも……」
「うん?」
「イーズも、こっそり泣くときは、わたしの前で泣いて。イーズだって、悲しくなること、あるでしょ。わたしばかり泣くのはいやだ」
ナノの頭に伸ばした指先が震える。ナノの頭にゆっくり触れると、ふわふわとした髪の毛は、小さなひよこのような触れ心地だった。
ぎこちない動きしかできない自分がもどかしかった。どうやってこの柔らかい髪の毛に指を通せばいいのか、イーズにはわからなくて、指の震えのせいにするしかできなかった。
*
ナノは最近、農場のそばにある売店で仕事を始めた。学校に通いながら、放課後や学校が休みのときだけ出勤している。少しでも家計を助けたいらしい。
休憩中のナノを訪ねたら、木陰でパンを食べていた。ときおりパンをちぎり、小鳥にあげている。その姿に意識を取られ、ぼんやりと立ち尽くした。
「うん? イーズか、どうした?」
「…………! ご、ごめん。ちょっとぼーっとしてた。休憩中かなあと思って寄ってみたんだ」
「ぼーっとするなんて、らしくないな。そうだ、イーズも食べるか? 今日はパンを焼きすぎてしまったらしくて、たくさん分けてもらったんだ」
「ありがとう。いただきます」
もちもちの白パンだった。口に含むとふわっと小麦の甘さが広がる。
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