第102話

 たがが外れたように泣くナノを前に、イーズはひどく狼狽えた。


「ごめん、ナノ。僕が……」

「ちがうんだ。イーズの、前だと、あんしん、しちゃってええ……」


 いつもナノの泣き顔を見ては怒りすら感じていたのに、今はあのときのユーリの気持ちが少しだけ理解できた。


 ナノの頭を自分の胸の中に収め、ユーリになったつもりでナノに接してみた。ユーリのような大人の身体ではないから、なんだかぎこちない体勢になってしまう。


「ナノ、泣かないように我慢してえらい。だけど、僕の前では泣いていいよ」

「ううっ……ぐずっ……じゃあ、イーズも……」

「うん?」

「イーズも、こっそり泣くときは、わたしの前で泣いて。イーズだって、悲しくなること、あるでしょ。わたしばかり泣くのはいやだ」


 ナノの頭に伸ばした指先が震える。ナノの頭にゆっくり触れると、ふわふわとした髪の毛は、小さなひよこのような触れ心地だった。


 ぎこちない動きしかできない自分がもどかしかった。どうやってこの柔らかい髪の毛に指を通せばいいのか、イーズにはわからなくて、指の震えのせいにするしかできなかった。


 

 ナノは最近、農場のそばにある売店で仕事を始めた。学校に通いながら、放課後や学校が休みのときだけ出勤している。少しでも家計を助けたいらしい。


 休憩中のナノを訪ねたら、木陰でパンを食べていた。ときおりパンをちぎり、小鳥にあげている。その姿に意識を取られ、ぼんやりと立ち尽くした。


「うん? イーズか、どうした?」

「…………! ご、ごめん。ちょっとぼーっとしてた。休憩中かなあと思って寄ってみたんだ」

「ぼーっとするなんて、らしくないな。そうだ、イーズも食べるか? 今日はパンを焼きすぎてしまったらしくて、たくさん分けてもらったんだ」

「ありがとう。いただきます」


 もちもちの白パンだった。口に含むとふわっと小麦の甘さが広がる。

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