第101話
「わかった。ナノにとっては僕が一番強い人なんだね」
「うん」
ナノは納得したように笑った。
「……じゃあ、教えてあげる。僕はいつも泣きそうになったら、大きく息を吸うんだ。そして後でこっそり泣く。後で泣こうって決めてるの」
「なるほど。わたしにもできるかな」
「何度かやってればできるようになる。あ、だけどあんまりやりすぎると……たぶんユーリに怒られるから、ほどほどにね」
「ユーリが怒るのか。それは困る。でも、わかった。学校でだけその方法を使うようにすればいい?」
ナノはふんすと鼻を鳴らした。
ナノは相変わらず学校ではほかの生徒からからかわれている。傷のこと、家のこと。あとイーズと一緒にいることも最近はからかわれて始めていた。
イーズはほかの生徒よりも身体が大きく、村で一番大きな農場の息子であり、先生や生徒の親たちは誰ひとりとしてイーズを悪くいう者はいない。
イーズ本人は存ぜぬところだが教室にいる女の子の半分はイーズに心を寄せていた。そんなわけで、イーズを直接からかう生徒はいなかった。
その分、ナノに矛先が向く。すぐに泣くから、自分よりも弱いのだとみんなが認識していた。
それでもナノは変わろうとしていた。イーズが教えた方法を実践し始めたところ、ナノはあまり泣かなくなった。あまつさえ、相手をにらみつけて無視するまでになった。
そんなナノを見ながら、しまったな、とイーズは思っていた。泣くのを我慢させてしまうのは不本意だったからだ。
学校からの帰り道、ひとりで歩いていたナノに駆け寄り、声をかけた。直前にだれかをにらみつけたのか、ナノの眉間にはしわが寄り、口はへの字に曲がっていた。
「……ナノ、大丈夫? いっぱい我慢してるんじゃない? 僕があんなこと言ったから」
「………………うっ」
イーズのひと言でナノは限界を迎えたようだった。
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