第100話
ハゲているユーリを想像したら、ちょっと可笑しくなって笑ってしまった。笑ったら、どこにしまっていたのかわからないくらいの、涙が溢れた。
ユーリは胸の中にイーズを収めて、イーズの背中を優しくさする。そうされると、もうなにが原因で泣いているのかわからなくなってしまった。
「イーズ。イーズはどうやって泣かないようにしてるの?」
学校の帰り道で、突然ナノが問うてきた。ユーリが先日のことをナノに話したのだろうか、と内心焦る。
「な、なんで……?」
「わたしはすぐに涙が出てくる。どうしたら涙を我慢できるのか、ユーリに相談したんだ。そうしたら、わたしの中で一番強いと思う人にきいてみろって言われたの」
「……僕がナノの中で一番強い人なの?」
ナノはこっくりと頷いた。
「僕は……強くないよ。そんなに。ユーリのほうが強いんじゃない、大人だし」
「ユーリは寒いとすぐ動かなくなるから、強くない。イーズは身体も大きいし、学校のみんながわたしの傷をからかっても、イーズだけは優しくしてくれる。だから強い」
「それは……だって、そんなのからかうものじゃないでしょ。なにひとつ可笑しくないのに」
これは本音だった。あれはただの難癖だとさえイーズは思っている。
ただ、イーズがナノに優しくするのは周りに優しくするようにと言われるからにすぎない。それだけなのに、強いと言われると心を細い針でちくちくされているようだった。
「…………強いよ。イーズは強い」
ナノは泣きだしそうな顔でイーズの服の裾を掴み、弱々しくもまっすぐな目でイーズを見つめていた。ユーリの前でわんわんと泣いてしまう自分を強いと言うなんて。ユーリに笑われてしまうかもしれない。
それでも、一番強い人と言われると悪い気はしなかったし、ここでイーズが否定してしまうとナノはそのまま泣きだしそうな雰囲気さえある。
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