第99話

 だからナノには優しくしてあげなければならないと、イーズの両親は涙ながらに語っていた。


 イーズもその教えに従った。学校ではいつもナノの手を引いて、ナノが泣いたら慰めて、困っているときには助ける。ナノはすぐめそめそするわりに、なにをしてほしいのかもはっきり言わない。


「……ナノは、自分が泣きたいときに泣くから……嫌い」

「ほう、泣きたいときに泣くのは悪いことか?」

「……わかんない」

「わかんねえのに嫌いなのかよ。変なやつだな」


 怒られるかと思いきや、ユーリはわっはっはと笑いながらイーズの頭を撫でた。ずしりと重く、固くなった手がイーズの頭の表面を行ったり来たりする。

 頭を撫でられていると、なぜか目の奥が痛くなってイーズは自分の膝に顔を埋めた。ひっくひっくと喉から変な音が出る。


 自分ではどうにも止められなかった。止めなくてはいけないと頭でわかっているのに、なにもできない。なにもできない自分が歯痒くて、悔しくて、憎らしかった。


「おまえも泣きたいときに泣いていいんだぞ。まあ、ここだけの話、ナノはちょっと泣きすぎな気がするけどな」

「……ごめ……っ、なさい」

「謝るところじゃねえよ。イーズが泣きたいときに泣いていい。ただそれだけの話だ」

「……僕が泣いたら、みんな困る……お父さんもお母さんも、先生も、みんな。だから泣かないように……しなくちゃ……」


 ユーリはうーん、と腕を組む。そしてイーズの肩に手を回し、ぽんぽんと軽く叩いた。


「泣くのを我慢するなとは言わねえけど、泣いちゃいけないってことはない。少なくとも俺の前では」

「本当に困らない?」

「泣いて暴れるわけじゃねえなら、べつに困らねえよ。いちいち困ってたら、ナノと暮らせねえだろ。俺はとっくにハゲてるよ」

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