第132話

 ネモはぱんっと思い切り手を叩く。その音を合図にイーズとステラはかごを背負い出かける支度をする。ネモがおやつにパンを用意してくれていて、しっかりと持たされていた。


 イーズとステラを見送って、ふたりは室内に戻る。ネモはふうーっと大きな息を吐きながら、ソファに身体を預けた。


「ネモさん、わたしはなにをすれば……」

「ふん、そこに座れ。ガールズトークといこうじゃないか。コーヒーを入れてくれんか」


 ナノは台所へ向かい、コーヒーを淹れる。ネモはコーヒーにこだわりがあるらしく、何種類か揃えていた。苦味が強いもの、酸味が強いもの、まろやかなもの。異国のコーヒーもあって、とても甘いもの。


「ほんとに、見れば見るほどアイにそっくりじゃ。ガキの頃からそっくり親子と思っていたが、成長するとなおさらじゃのう」

「……お母さんとも仲がよかったんですね。ユーリ繋がりですか?」


 ネモは首を横に振る。


「そもそもワシのほうが先にアイと交流があったんじゃ。ワシとアイは同じくらいの時期にあの街に移住して、アイが売っていたパンをよく食っていた。ああ、アイはパン屋に勤めておってのう、移動販売の売り子をやっとったんじゃ。ナノも一緒に店番をやっとったんじゃよ。小さかったから覚えとらんじゃろ」


 移住時、ネモはまだ十代だった。街の生活に慣れずにいたところ、ナノの母、アイと出会った。ネモにとってアイは歳の離れた姉のような存在だったそうだ。


 ネモを育ててくれた親戚は小さな画材店を営んでいた。そこで染料や筆、キャンバスを作ったり、よそから仕入れたりして売る。それがネモの毎日だった。

 ある日アイに連れられてユーリがやってきた。それがネモとユーリの出会いだった。

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