第54話

 どうだ、とステラの反応を窺おうとナノは勢いよく顔を上げる。ステラはあまり嬉しそうにしてはおらず、どこか憂いを帯びていた。


「ステラ?」

「あ、あのさ、ナノ。おれ、欲しいものがある」


 ステラはいつになく決意めいた口調で、その金色の瞳がこぼれてしまいそうなほど震えていた。


「……っこ……」

「うん?」

「おれ、学校……を作りたいんだ」

「学校? そうか。それはたしかに金が必要だな」


 ナノがそう返すと、ステラの顔から一気に緊張が抜けた。


「…………笑わねえのかよ」


 ステラは磨き終えたブーツを履きながら、不思議そうな顔をする。その反応のほうがナノにとっては不思議だった。


「おれみたいなのが、学校作りたいだなんておかしいだろ」

「壮大な目標だとは思うけれど……今のはウケを狙ったのか? それならごめん。笑いどころがまったくわからない」


 ステラはぶんぶんと首を横に振る。


「いい夢だと思う。わたしはあんまり学校が好きではなかったから、ステラにはそんな子どもでも楽しめるような学校を作ってくれると嬉しい」

「うん。する」

「今は仕事中だから、今度詳しく聞かせてくれ」


 ナノはステラの背中を軽く叩いた。ステラはいつもより元気よく返事をして、機嫌よく店を出た。

 店の奥から店主と奥さんが出てきてナノのそばに立つ。ふたりも機嫌よさそうに笑っていて、ナノまでなんだか嬉しくなった。


「いやあ、青春だねえ」

「いいわねえ」

「青春?」

「かわいいわねえ、靴磨きを口実に会いにくるなんてっ!」


 奥さんの語尾がぴょいと跳ねあがる。

 その横で店主も顎髭を撫でながらにやにやしていた。

 ふたりの言わんとしていることを察知する。


「……ああ。そういう関係ではないので……旅の仲間なんです」

「あら! そうなの?」

「ということは、彼も青の絵画を探しているのかい?」

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