第53話
結局これという情報は得られていないけれど、ナノの中で青の絵画のイメージが具体化していく。
仕事に行く前に、郵便局に立ち寄った。十日ほど前にルークに手紙を宛てており、しばらくはこの街に滞在することを伝えている。そろそろ返事が来ることかと予想していた。
郵便局の窓口では旅人用の手紙を預かってくれる。一ヶ月ほど保管され、持ち主が現れなければ送り返される仕組みになっていた。
「ナノ・ビオレタさんですね。一通届いています」
局員から手紙を受け取る。差出人はルークだった。ルークはいつも薄青色の便箋と封筒を使っている。以前手紙で書かれていたが、この便箋と封筒は彼のお気に入りらしい。
──ルークさんも青が好きなのだろうか。
すぐさま手紙を読みたいところだったが、朝だというのに郵便局は混み合っているので、ナノは鞄に手紙をしまった。
「靴を磨いてくーださい」
客足が落ちついた頃、ステラが店にやってきた。
ステラはこまめに靴を磨きにやってくる。一度つやつやのブーツを見てしまったら、少しの汚れでも気になってしまうらしい。
きれいな靴で仕事に出ると心なしかきびきび働けるのだと、ステラは笑いながら話していた。
ステラは椅子に座り、靴磨き台の上に足を乗せる。とはいえ、ついこの前磨いたばかりだ。ほんの少し、砂埃のようなものが付着しているくらいでステラの靴はまだきれいだ。
「わたしの磨き方がよくないのかな。頻繁に磨かないといけないのは面倒じゃないか?」
「ううん。いいから磨いてよ」
「わかった。今日も仕事がんばれ。ステラの欲しいものが手に入るようにな」
いつもより丹念に靴の表面を磨き、革用のワックスを塗り込む。これで泥はねや汚れの付着を少しは防げる。ステラの靴は大げさなくらいにつやめいていた。
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