第36話

「本来ならこの花は白やピンク色をしているんだが、レオは青い染料しか使わないからこの色になった。レオはすごく申し訳なさそうにしていたけど、うちはこれで満足してるんだ。あのレオに彫ってもらえたんだから」


 店長が水を飲みながら言った。


「え、そうだったの。青しか使わないんだ……」


 イーズは目を丸くしていた。レオにもそんなこだわりがあったのを知らなかったけれど、ナノもこの店のふたりも青いタトゥーだし、ナノはそれほど驚かなかった。


「青しか使わないなんてユーリみたいだな」

「ユーリ?」


 店長とうさぎの店員が不思議そうな顔をする。ナノはユーリと青の絵画について説明をした。


「あ、そういえばレオから聞いたことがあるな。画家の友人がいるって」

「今、その絵画を探す旅をしているところなんです」

「青色だけの絵かあ! うちも見てみたいなあ。レオがその絵の場所を知ってるってこと?」


 ナノは首を横に振る。しかし今のところはレオしか頼みの綱がないことを伝えると、店長もうさぎの店員も揃って気の毒だと言わんばかりの顔をする。


「だけど、レオさんと話せば、なにかしらの情報は得られると思うんです」

「そっか。見つかるといいね。それにしてもレオは今どこにいるんだ? まあ、彼のことだからきっと暖かい場所なんだろう。寒いのが死ぬほど嫌いだって言っていたし」


 店長がけらけらと笑う。ナノのタトゥーを彫ったときも分厚いセーターを着ていたのを思い出す。


 しばらく五人でレオの話をしていたが、客が入ってきて満席になってしまったので、三人は目配せして店を出る。うさぎの店員が出入り口まで見送ってくれた。彼女は励ましの言葉を添えながら『しちみ』をナノに持たせてくれた。

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