第35話
ごめんねと言いながら店長は三人の前にそれぞれ小さな皿を置いた。皿の上には黄色い楕円形のものが乗っていて、オムレツと似ているけれども少し違っていた。たまごを焼いたものには違いなさそうで、ナノはそれをひょいと口に入れる。
たまごの甘さと、塩味が絶妙に調和している。このスープと似た香りが鼻の奥を抜けていった。
おいしいおいしいと食べていたら、イーズとステラが自分のたまご料理をひと切れずつナノの皿に乗せた。息を合わせたかのようにほぼ同時だった。
「ナノが食べてるの見るだけでお腹いっぱいになっちゃった。だからあげる」
「隣でそんな美味そうに食われたらなあ……餌付けしたくなるわ」
ナノは遠慮なくふた切れ分をたいらげる。優しいふたりが旅の仲間で本当によかったと思った。
食事を終えると身体が温まってきて、ナノは腕をまくった。マーメイドのタトゥーがあらわになると、うさぎの店員が感嘆に近いような声を上げた。
「ワァ! それってレオのタトゥーじゃない?」
「レオさんを知っているのか」
「もちろんだよ! レオは有名な彫り師だもん。うちも店長もレオに彫ってもらったのさ」
うさぎの店員が服の裾を捲ると、右腹のあたりに花のような模様のタトゥーがあった。ナノと同じ青色で描かれている。
数年前に彫ったものだとうさぎの店員は得意げに話した。店長の故郷ではよく見られる花らしく、春になるとつぼみが開き散ってしまうそうだ。その花を愛でるのが、店長の故郷での習わしらしい。
この街にやってきてからこの花を見る機会が減って、ときどき思い出すために彫ってもらった。ちなみにうさぎの店員は店長と同じものが欲しかったから彫ってもらったそうだ。
青い花なんて珍しい、とナノが指先でうさぎの店員のタトゥーを撫でると、うさぎの店員は身体をよじりながら小さく笑う。
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